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デザイナーの可能性を模索し続けてきた、ほぼ11年をふり返る〜第3章〜

これまで約11年間のデザイナー活動をふり返る連載の第3回。ここまでは、社会人になって、ヤフーでデザインの現場を知り、試行錯誤しながらUXデザインを実践、推進し始めた時期までをふり返りました。

第1章 デザインの現場を知る
第2章 UXデザインの広がりとともに
第3章 UXデザインの継続に向けて
第4章 デザイン研究へのチャレンジ
第5章 デザインの実践と研究を模索

前回は、ヤフー社内でUX推進活動をやり始めて徐々に活動範囲が拡大していった時期の話でした。

第3章となる今回は、UX推進活動の第2フェーズとしてUXを組織の中で継続的に実践していけるようにするにはどうしたらよいか?模索していった時期(2015年頃~)の話です。前回のボトムアップでのUX推進活動の話と比べると、これをやるとうまくいく!というノウハウがある感じではないですが、一人のデザイナーがやっていた試行錯誤の記録としてふり返ってみます。

成功事例への期待に対する違和感

UXデザインの推進活動をやり始めた頃、「まずは成功事例をつくって、社内で広く推進するのはそれからで…」と各方面の人たちに言われました。なので、相談を受けたさまざまなサービスでUXデザインを導入するサポートをしていました。(全部私一人でやっていたわけではなく、第2章で触れたワーキンググループのメンバーで手分けしてやっていました。)相談しやすい場づくりとして、ワーキンググループメンバーがローテーションでペアを組んで社内のカフェスペースなどにいき、なんでも相談を受ける「デザイン思考よろず相談会」を定期的にやったりしていました。このよろず相談がきっかけでサポートに入る案件も比較的多くありました。

活動を始めて1年と経たないうちに、社内のUX活用事例は10件以上できました。でも、期待されていたのは極端にいうと、短期間で大ヒットサービスを生み出すこと、いわゆる「イノベーション」でした。それができればみんな「UXいいね!デザイン思考いいね!やろう!」となる。理屈は分かります。なぜなら、みんな失敗したくないから成功事例の真似をしたいのです。でも、私は活動を続けるうちに、その期待に真正面から答えることに違和感を感じるようになっていきました。UXデザインは中長期的に継続して徐々に組織文化として根付かせていかなければ、それこそユーザーに支持され使い続けてもらえるようなヒットサービスにはなり得ないのではないかと感じていました。

成功事例を生み出したとしても、それを真似して他でも同じようにやれば成功するようなフレームワークがあるとは思えなかったのです。分かりやすい成功事例があれば、信頼は更に得られるかもしれません。でもそれが本質的に大事なこととは思えませんでした。サービスや部署によって仕事の回し方は異なるし、ちょっとしたサービスの改善なのか、大幅リニューアルなのか、全くの新規案件なのか、目的によってもやり方は変わってくるし、時間やリソースの制約がある中でどうやるか?についても考えながらサービス開発をしていくのが現実です。

案件ごとに、どんな状況で、どんなやり方をして、その結果何が得られたのか、これを事例ベースで学びとして共有していくことを大事にしたいと思うようになっていきました。こういうところが私はデザイナーっぽくなくて、研究者気質なんだろうな…と思ったりします。自分自身で新しいものを生み出すことより、新しいものが生み出されるしくみを探求したくなってしまうタイプでした。

単発のプロジェクトではうまくいっても・・・

UXの推進活動を続けていくうちに、プロジェクト単位での事例は年々増えていきました。プロジェクトの目標だったKPIを達成できた事例もいくつかありました。でも、その後、組織内でUXの取り組みが続かない..という場合が多いことが分かってきました。なぜ続かないのか?理由は大きく2つあったと思います。

組織内でUXの取り組みが続かない理由
〈1〉組織変更でUX担当者が異動してしまう
〈2〉コンセプトで大事だったはずの本質的要素が要件から落ちてしまう

1つは、一旦プロジェクトが終了するとチームが解散させられ、主導したメンバーが異動してしまったり積み残した課題に取り組めなくなってしまうパターンです。これは、組織変更の権限をもつ人にUXデザインの価値がしっかり伝わっていないと起こりやすいものです。

もう1つは、開発が進んでいったとき、大事だったはずのコンセプトやユーザーへ提供する価値が要件から落ちてしまうパターンです。これは、チームや組織の中でユーザーへ提供する価値の本質が十分に共有できていないと起こりやすくなります。さまざまな制約がある中で最後まで「ユーザーへ提供する価値としてこれが大事!」という信念をもてるくらいにユーザーのことを深く理解できているかが問われます。ユーザーのことを深く理解できていれば、制約が出てきたときに「ユーザーにとってこれが大事だからここは譲れない!」という最低限譲れない要件を主張できるので、コンセプトの軸がブレることはありません。

UXデザインを組織の中で継続的に実践していけるようにするにはどうしたらいいのか?UX推進活動の第2フェーズとして、この課題に取り組んでいくようになりました。

チームづくりへの関心の移り変わり

組織内でUXデザインを継続させていくために必要なこととして、チーム内でユーザーに関する共通認識をつくることをあげました。この点に関して、私の中では2014年頃からチームづくりへの関心が高まっていきました。さまざまな組織でUXデザインを導入し、うまくいったチームとうまくいかなかったチームの違いを考えたときに、チームメンバー間のコミュニケーションが円滑で一人ひとりの関係性がよいチームだとうまくいっていると感じる場面が多々出てきたため、チームづくりの重要性へ意識が向いていきました。

この頃、ヤフーのデザイナー数人で「一人から始めるユーザーエクスペリエンス」の翻訳をやったときは「3章チームビルディング」を担当しました。UXデザインで成果を出すためには、ユーザーの体験だけでなく、チームメンバーをはじめ関係者の体験を考えることも大事という話をUX系のイベントでしたこともありました。(最近ではエンプロイーエスクペリエンスという言葉で語られる話に通じる部分もありますね)

下の図は、UX系のイベントでチームビルディングをテーマに話したときのスライドの1枚です。4、5年前の時点で既にチームメンバーの体験のことをかなり考えてこういうふうに言語化していたんだなと、改めて見返すと自分でも興味深いです。

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そんなこんなで、UXデザインの社内推進活動を続けていくうちに、UXデザインの手法そのものより、UXデザインを状況に合わせて活用して成果を出すための方法へ関心領域が移っていきました。

詳しくは次回の第4章で触れようと思っていますが、2016年から大学院で研究テーマとして扱ったのもチームづくりを目的としたふり返りでした。

継続的にUXを活用できる組織にしていくために

最初の1、2年は、基本的にボトムアップでUXデザインを推進してきました。とはいえ、ボトムアップの限界を感じ始めていました。業界的にも「UX」の存在が広まってきていたので、そろそろマネージャー層を巻き込んでトップダウンの力も活用してUXデザインを推進していかないとこれ以上成果を出しにくいし、業界内でも遅れを取りかねないと思うようになりました。

UX推進第2フェーズの頃にやっていた施策で覚えているものをあげてみるとこんな感じでした。

・定量調査と定性調査を組み合わせたサービス改善
・ユーザー体験を測る指標(KPI)の定義
・サービスのコアバリュー(提供価値)をつくる/見直す手法の作成と実施
・UX推進者の継続的なサポート

UXデザインを組織に浸透させていくにあたっては、事業や組織目標への貢献が問われるため、評価指標を定義し、データサイエンティストと連携してデータ化できるものはデータで成果を示せるようにする努力をしていました。でも、UXデザインの本質的な意味はデータで示せるものではないと思っていたので、データの力を借りつつ、データに頼りすぎないようにすることも忘れないようにしていました。

それに、UXを組織に浸透させていくのは、組織の規模にもよりますが、短期間でできるものではありません。半年に一回それなりに組織変更がある企業において、組織変更で人の異動が多少あっても続けられるようにする工夫が必要です。そのためにどうしたらよいか?いくつかの組織で実際やってみて大事だと感じたポイントは、ミドルマネジメント層を味方につけることと、人財育成と事業開発をセットで進めることの大きく2つでした。

ミドルマネジメント層を味方につける

UXデザインの取り組みは、担当する案件でUXデザインを取り入れたいというデザイナーやプロジェクトマネージャーからの相談が多かったのですが、その人たちとだけコミュニケーションをとって進めていっても、組織内で継続しにくいのはこれまで触れた通りです。そこで、もう一つ上のレイヤーの人たち、サービス責任者や部長の人たちと意識的にコミュニケーションを取るようになりました。このようなミドルマネジメント層も、UXデザインは取り入れた方がよいとは思っている場合が多いです。それでも「あまり時間はかけられないが、それでもUXはできるのか?」「UXを取り入れるのは、具体的にはどんなメリットがあるのか?」など、UXに対して疑問をもっている人も少なくありません。そこで、最初に彼らの課題感をしっかり聞いた上で、その組織の課題を解決する上で役立つものとして位置付けながら、UXデザインを導入する意義を丁寧に説明し、理解を得られるようにしていきました。そして、UXデザインの組織内推進に一緒に取り組むパートナーとして、期限を決めて目標を設定し、定期的な相談の場をつくりながらUXデザインの推進を進めていきました。こうした取り組みを止めずに続けていったことで、UXデザインを組織内で推進していくことに対する当事者意識が高まり、組織変更の際にUXの推進役が動きやすいような人員配置をするようになったりもしました。このように、ある程度組織編成に対する権限をもっているマネジメント層を味方につけることが大事だと実感しました。

人財育成と事業開発をセットで進める

サービスのグロース施策など事業開発の相談をきっかけにして、組織に関わることが多かったですが、UXデザインを取り入れて案件を進めるときに、そこでUXの推進役となる人を決め、その人が一人前のUXデザイナーとして組織内で動けるように、二人三脚で案件を進めていくようにしていました。UXの推進役の人と一緒に、UXデザインを取り入れたプロジェクトの進め方計画から、チームで行う作業の準備、チームメンバーをうまく巻き込むファシリテーションのコツなど、都度こまめに相談しながら進めていました。そうすることで、ただその案件をうまく進めるだけでなく、UX推進役の人がUXデザインのスキルを実践で身につけていけるように人財育成もセットでサポートしていました。

社内でUXデザイナーを増やすことを目的としたUXデザイナー育成の取り組みは、これもボトムアップの全社横断ワーキンググループを立ち上げて活動していました。そこではメンターとメンティーのペアを組み、定期的に1on1をしながら学習したりアドバイスをもらいながら案件の中で実践して自立を目指すような形でUXデザイナーを育成していました。私もメンターとして約4年間で計6、7人ほどのUXデザイナー育成にあたりました。やはりUXデザインは本を読んで学べばできるようになるものではないため、担当する案件の中で何らかの実践をすることを視野に入れた実践型の学習スタイルを重視して進めていました。UXといっても、プロジェクトマネジメント、UIデザイン、情報設計、定性調査、定量調査、などなど関係する分野は幅広いので、一人ひとりのメンティに合わせて私の知識と経験を駆使して一緒に学び直しながらやっていた感じもあり、楽しかったです。

組織にUXを根付かせていくことも、一人前のUXデザイナーを育成することもどちらもそう簡単にできることではありません。組織も人も、そう簡単には変わりません。半年、1年単位でひとつの組織や一人の人と向き合って、地道に続けていきました。

第3章はここまで。
次回は、更なる探究心を満たすべくチャレンジしたデザイン研究、大学院へ通った時期をふり返ります。

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