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二次創作小説の書き方【応用編】

 前編である【基本編】から続いて、今回は【応用編】になります。
 情報量が多すぎても混乱するかと思って基本編から省いた分も、今回は記していきたいと思います。


快適な執筆環境を作る 


 さて、いきなりですがこれは本来基本編に入れたかった内容です。
 本業作家ではない私たち二次創作作家は、仕事や学業をこなしながら執筆を進めていくことになります。
 執筆を捗らせるためにも、執筆環境を整えることは重要です。

 私の場合はハーメルンとpixivに投稿しますが、ハーメルンの下書き機能(執筆中小説)を使っています。ここでは使用する上でのメリット、デメリットを紹介していきます。

  • メリット

 一番のメリットはブラウザさえあればどんなデバイスからでも執筆できるという点です。
 PCで書いていた作品をリビングのタブレットで、出先のスマートフォンからとネットワークさえ繋がればどこでも執筆可能です。

 またハーメルンでの特徴として、履歴機能があります。どの日にどれだけ書けたか分かりますし、ロールバック機能もあるので前のバージョンに戻すことも可能です。

 またハーメルンのルビタグはpixivに貼り付けた時、pixiv側がルビタグの存在を検知して変換を提案してくれます。
 逆にpixivからハーメルンに貼りつけてからルビタグの変換は可能ですが、こちらはユーザーで操作が必要なのでハーメルン→pixivとした方が圧倒的に楽です。

  • デメリット

 当たり前ですが、ネットワークに繋がらないとこのサービスは利用できません。
 またクラウド上にしか最新状態の作品がないことになりますので、障害が起きたら全て消えてしまう可能性があります。
 こまめにバックアップするか、pixivの下書きにもコピーしておくなどの備えが必要です。


ひらがな、カタカナ、漢字の使い分け

 文章を書く人なら一度は「何を漢字にして、何をしないか」を気にしたことがあるでしょう。
 変換機能によって難しい漢字を使うことは簡単になりましたが、漢字ばかりの文章は非常に読みにくいです。難読漢字ばかりになってしまうと読みにくいだけでなく、読み手には「読者に対して配慮が足りない人なんだな」と人柄まで見透かされてしまう事態になるのです。

 ではどうするかと言うと、基本編に常用外の漢字は使わないことです。
 また「この漢字は変換しない」と決めておくことも有用です。私の場合は作品毎にどこまで漢字にするか決めますが、作品の雰囲気作りはできる反面管理が大変になってくるのであまりおすすめしません。

 参考にこの漢字はひらがなにしておくと読みやすくなる、という漢字を紹介します。

事 → こと
全て→ すべて
無い → ない
良い → よい

 非常によく使う漢字だからこそ、これを変換しないでおくことで大きく読みやすさに貢献してくれます。ただし、もちろん『事』をひらがなにしておくことは『事態』などの熟語にはあてはめません。

 また漢字同士やひらがなとの組み合わせも考えてみましょう。

"一体何故そう思ったのだろう。"
"いったい何故そう思ったのだろう。"

 前者は四文字熟語っぽく見えて一旦頭の処理が入るのに対して、後者はその可能性がありません。
 こういう時、私はという話にはなりますが漢字の変換ルールよりも読みさすさを重視します。

 次にカタカナですが、これは醸し出したい作品の雰囲気を念頭において決めていくことになります。

“いけすかない奴だ。”
“いけすかないヤツだ。”

 それぞれどういう印象を持つかは読み手のバックボーンによるところもあるでしょう。『奴』だと比較的明確な敵対関係を想起させられるのに対して、『ヤツ』だと多少柔らかくなっているかと思います。

 他にもオノマトペを『ぽかぽか』にするのか『ポカポカ』にするのか、雰囲気や読みやすさを意識して選択していくとよいでしょう。


センテンスを分けすぎない


 センテンスとは句点に分けられた一文のことを言います。
 ではこれはどういう意味かというと、句点があまりに多い(長い)文章は読みにくくなってしまいますよという話です。

 大体三○字までに句点を打つ方が読みやすくなると言われています。
 しかし分けたからと言ってやたらめったら長い文章になってしまうと、脳が処理するのに時間がかかったり、そもそも理解できない文章になってしまったりします。
 目安を決めるなら文章のセンテンスは二つまで、多くても三つまでにすると理解しやすいです。

 ただし、文章を特徴付けるためにあえてこの方法を無視する手法もあります。
 また『住所、氏名、電話番号、家族構成を書いてください』のように分けざるを得ない場合もあります。

 推敲の際はセンテンスを分けすぎていないか、逆に分けなさすぎてないか、気にして読んでみましょう。


重複表現を避ける


 これは『眉間の間』や『頭痛が痛い』という重複表現を避けましょう、という話だけではありません。

 例えばこのような例です。

・推敲前
"偏った印象かも知れないが、三浦は身近に置く人間を見た目で選んでいる印象がある。"

・推敲後
"偏った印象かも知れないが、三浦は身近に置く人間を見た目で選んでいるきらいがある。"

 推敲前は一つの文章の中に『印象』が二回出てきて冗長な感じがしますね。
 同じような表現をする場合は言い換えや類語などで別の表現に変えると、語彙も増えていきますし読み手に退屈な印象を与えません。


語尾の母音に要注意


 これは好みによるところもありますし、使いわけが重要になる注意点です。

 例えばこのような例です。

推敲前
“私はこのコースを走るのは初めてだった。正直に言って、緊張していた。どれぐらい危険なコースなのか分からなかった。”

 例文の場合はすべて『〜た』なので母音は『あ』になります。
 韻を踏みすぎてしまうと、かなり説明的でかたい文章になっていますね。これを少し推敲してみましょう。

推敲後
“私はこのコースを走るのは初めてだった。正直に言って、緊張している。どれぐらい危険なコースなのか分からない。”

 文章が少し柔らかくなって、臨場感も高まったように感じないでしょうか。
 これは好みや作品の雰囲気に合わせて選択すべきことなので一概に守るべきとは言いませんが、文章の印象に迷ったら参考にしてみてください。


語彙を増やすには?


 流麗で読者の心を揺さぶる文章を書くために、語彙は多いに越したことはありません。
 ではどのように語彙を増やしていけばいいのでしょうか?

  • 他の人の作品を読む

 これは至極まっとうな意見に感じるでしょうが、二次創作に限らず一般文芸などを読んでいくと語彙は増えていくでしょう。
 この人の文章は上手だな、と感じる人の作品を読み込むと楽しみながら勉強になります。初めて触れる言葉が出てきた時はその意味を調べるのも肝要です。

  • 国語辞典を読む

 なんとも乱暴なことを言うヤツだと思われたでしょう。しかし、これが一番手っ取り早いのです。
 流し読みでもいいのでひたすらページをめくり、使えそうな熟語や単語をひたすらメモしていきます。もちろん、用法や意味も一緒にメモします。

 面倒くさく感じるかも知れませんが、続けていると相当な力になります。難しい熟語は使いどころが難しいですが、白い肌を表現するのにも『白皙』『雪肌』などの語彙が増えれば作品に彩り与えてくれるでしょう。


表現力を上げるには?


 代表的な例ですと、表現には比喩や暗喩があります。

比喩(直喩)表現
“雪のような肌”
『〜のような』といった例える表現

暗喩(隠喩)表現
“鋼のメンタル”
例える名詞と例えられる名詞を助詞の『の』で接続する表現

 表現の名前を知っていなくても、こういった文章は誰もが書いたことがあるのではないでしょうか。
 この項目ではその使い所について考えてみましょう。ここに二つの文があります。

"そう言葉にする。"
"言の葉を紡ぐ。"

 後者の方が、詩的な表現です。
 ではいい表現が思いついたからどこにでも使うか、と言ったらそうではありません。
 例えばクライマックスのシーンで詩的な表現を使うことに違和感はありませんが、日常シーンで詩的な表現を繰り返していてはくどいです。いざという時に表現が尽きてしまうかも知れません。たとえ表現が尽きなくとも、どこが見せ場だったのか分かりにくくなってしまいます。

 大事な表現はここぞという時まで温存しておくのが、作品にメリハリをつけるコツといえるでしょう。

 ではこの詩的な表現はどうやったら思いつくのでしょうか?
 私のおすすめはシンガーソングライターになったつもりで文章を書くことです。

 実を言うと私は十代の頃から音楽をやっていまして、作詞作曲もしていました。
 この作詞というのは非常にむずかしく、またためになる経験でした。何せ伝えたいことをたった数分の曲に込めるのですから、言葉を研ぎ澄まさなければなりません。

 急にそんなこと言われても、という話だと思います。しかしよく考えてください。
 身も蓋もない言い方をしますが、自分の妄想を不特定多数に公表している時点で相当恥ずかしいことをしています。その勇気があれば、詩的な表現を考えることなんて恥ずかしいうちに入らないと思いませんか?


あえて短い(長い)文で表現する


 前出の項目では長過ぎる文章にしない(センテンスを分けすぎない)と書きました。
 しかし時にあえて文を短くしたり、長くしたりすることは表現手法として有用です。

短く区切った例
"ダメだ。どう考えたって無理だ。こんな高さから飛べるわけがない。"

 思ったことがポンポンと浮かんでくるようなシチュエーションが想起されますね。では逆のバージョンを考えてみましょう。

長くした例
"いやいや無理ムリなんだよこの高さから飛べるわけねぇだろ馬鹿なの鳥なの鳥になれってか。"

 あえて句点を入れずに書くことで高速で思考している、つまり焦っていることが伝わる文章になりました。

 こう言った崩すテクニックは文章の長短に限りません。
 すべてひらがなにしてふざけた感じを出したり、カタカナにして棒読み感を出したりといった崩し方もあります。

 このようにあえて崩すというのは作品に刺激を与え、表現の幅を広げてくれるでしょう。


難しい言葉は使うべきなのか?


 これは基本編でも書いたことなのですが、アホっ子設定のキャラが難しい漢字や熟語を駆使していると違和感を感じるでしょう。
 では難しい言葉は使うべきではないのかというと、当然ながらそうでもありません。表現と同じで、使い所が肝心です。

 難しい言葉(熟語)には様々な意味が込められています。
 二文字の熟語ならたった二文字の漢字の中に、言葉すれば長い意味が込められており、これを有効に使えば作品に深みを与えてくれるでしょう。

 次のような言葉を例に考えてみます。

【僭称(せんしょう)】
身分を超えた称号を勝手に名乗ること。またはその称号。

 ファンタジー物で騎士団長ぐらいの人物が

「皇帝を僭称するなど言語道断っ!」

 と発言したら雰囲気が出ますね。

 このように使い所も大事ですし、クライマックス等の重要なシーンで情報を詰め込みたい時に使ったりします。
 しかしこの場合はあまり難しすぎる言葉を使うと、真面目な読者さんは読んでいる途中で言葉の意味を調べだして、話の腰を折る結果になってしまう恐れがあります。
 これを避けるために、難しい言葉を使うにしても使われる漢字や言葉の雰囲気で伝わるものに限って使った方がいいでしょう。


原作に雰囲気を似せるべき?

 私は原作へのリスペクトを表明する為に、そして原作ファンにすんなりと受け入れて貰えるように似せるようには書いています。
 しかしそれも作品によって変えていて、例えば原作設定よりもだいぶ未来の話を書く時は性格や使う言葉を落ち着かせる、といった具合です。

 これに関して言うと、正解はありません。原作と文体が全く違うのに素晴らしい作品はたくさんあります。
 二次創作作家としてのオリジナリティを出しながら、珠玉の名作に仕立て上げる。これは凄まじい能力がなければできない芸当でしょう。

 腕に自信のある方は、いえそうでなくとも、自分の文章をどれだけだせるか挑戦してみてはいかがでしょうか。


推敲の注意点


 推敲は特に注意を払うべき作業です。
 推敲の方法は基本編に書きましたが、まだまだ注意すべきポイントはあります。

  • 集中して、一気にやる

 何を当たり前のことを、と思われるかも知れません。しかし一気にというのが本当に大事なのです。
 投稿する作品(一話分)を一気に推敲しないと、繰り返されて冗長に感じる表現や、漢字変換の一貫性が保たれているのか気づきにくくなります。
 最初のうちは直すところが多すぎてすらすら読み進められないので、後から推敲し直すと新たに気付くことが多々あります。
 推敲は何度もすべし、というのはこういう落とし穴があるからなのです。

  • 違和感をそのままにしない

 推敲を進めていると、文章としておかしくないのにしっくりこない時があります。
 執筆中は書くことが優先なので、こういう違和感を無視して書き進めるのはままあることでしょう。しかし推敲の時はそうも言っていられません。
 その違和感の消去法は、次のいくつかのうちにある場合が多いです。

  • 文章を移動させる

  • 文章を足す

  • 文章を削る

  • 文章の語尾を変える

 文章は台詞と読み替えても有用です。
 大切なのはその違和感を無視しないということです。


おわりに


 ここまでお読み頂きありがとうございました。
 私が十年以上かけて培ってきたノウハウを、基本編とこの応用編にすべて書き出したつもりです。

 しかしまだ書き出せていない要点もあります。それはどのようにして作品を生み出し続けていくかの、メンタル面の話になります。
 次回、いつになるか分かりませんが【メンタル編】も書いてみたいと思います。

 この『二次創作の書き方』があなたの創作活動の役立つことを祈っています。
 それでは、また。

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