二次創作小説の書き方【基本編】
はじめに
こんな大層なタイトルを見て思わずこの記事を開いてしまったあなたは、まずこう思うでしょう。
「お前の実力、なんぼのもんやねん」
これに関して、私は明確な答えを持ちません。趣味で二次創作を延々と十年以上書いているだけなので、何かのコンテストに応募して入賞したような経験もありません。
小説投稿サイトでは何度かランキング上位には入りましたが、それすなわち実力があると言えるわけでもないです。
ただありがたいことに同じ二次創作作家さんからは文筆能力を褒めて頂くことが多く、稀にですがアドバイスを求められることもあります。
そんな経緯もあって、筆をとったのがこの『基本編』になります。
この記事では二次創作小説を書く技術(=誰でも知っていればできること)を解説していきます。
また後編の『応用編』では二次創作小説を書く技能(=その人がいなくなれば失われてしまう技)の体得に繋がるような記事を書いていきたいと思います。
ちなみに何故『小説の書き方』ではなく『二次創作小説の書き方』なのかですが、筆者が一次創作小説を書いていないからです。技術的なことは一次創作に当てはめて考えてもそれほどおかしなことにはならないと思います。
なお、本稿では台本形式や掲示板形式、RTA形式には言及しません。
また読者の想定は『原作ファン』とします。
小説表現について
早速ですが小説を書くにあたっての基本です。
細かいことを解説したサイトはいくらでもあるので「なぜそうするべきなのか」を交えて解説します。
用語について
カギ括弧(「」)で囲まれた部分は『台詞』、または『会話文』、それ以外を基本的に『地の文』と呼びます。
この地の文で登場人物の心理描写をしたり、登場人物から見た情景描写をしていくことになります。
また小説を書くにあたっては視点というものがあります。
ある登場人物から見た視点で語られるものは『一人称』視点、第三者的・俯瞰的に語られるものは『三人称』視点となります。
また先々の展開を知った風に語る三人称視点を神視点と言ったりもしますが、本稿では『一人称』をベースとして取り扱います。
形式段落は一字下げる
こう言ったWEB上の記事ではあまりしませんが、小説では行頭に全角スペースを入れて一字下げるのが基本です。
これをしないと読み手がどこまで読み進めたっけ、と混乱しやすく、読みにくい文章になってしまいます。
ただし、カギ括弧で囲まれた部分(台詞)は字下げしません。
台詞の最後に句点は不要
× 「確かにそう言ったらしい。」
○「確かにそう言ったらしい」
たまに句点(。)をつける人がいますが、不要です。これも積み重なると読みにくい文章になりますので、避けるべきです。
・感嘆符と疑問府の後は一字分空ける
×「なんで!そんなこと言うの!」
○「なんで! そんなこと言うの!」
上記例文のように、文章間の感嘆符(!)、疑問符(?)がくる場合は全角スペースを開けましょう。カギ括弧の前には不要です。
これも積み重なるとうるさい文章になって、読みにくくなってしまいます。
・ダッシュと三点リーダは偶数で使う
×「これは───どういうことだ⋯」
○「これは──どういうことだ⋯⋯」
NG例が奇数での使い方、OK例が偶数での使い方です。これに関してはあまり読み易さには寄与しないので、こういうルールがあるんだということだけ知っていればいいかと思います。
それよりも重要なのは、三点リーダやダッシュには種類があるということです。
詳しいことを言い出すと文字コードの何々が正規の、なんて話になっていきますが、最終的にはどの三点リーダ、ダッシュを使うかは自分の好みで決めていいと思います。
OS、ブラウザによって見え方が変わるので、様々なデバイスで確認することをおすすめします。
また長音記号(ー)、いわゆる伸ばし棒をダッシュ代わりに使うのは止めましょう。表示するフォントによって物凄く見にくくなります。
数字の書き方
数字の表現については、これと言い切るのが難しいです。
一般的には書く際に漢数字を使うのかアラビア数字(1、2等の普段数式で使う数字)を使うのかを決めて、どちらかに同一すべきだとされています。
では小説においてはという話になると、文章の中で「二人して笑った」などの漢数字を使うことの方が多いので、漢数字に統一すべきとは思います。
しかしながら一般小説、ビジネス書、ラノベを見ても混在しているケースが非常に多いです。
私の場合は迷った挙げ句、漢数字で統一することにしました。
何故かと言うとpixivで小説を投稿する時、うっかり全角/半角を間違えると縦書き表示で意図しない表示になるからです。
pixivでアラビア数字を半角で入力すると横向きになり、非常に読みにくくなってしまいます。
そして漢数字で数字を表現する時に気になるのが、桁数の多い時の表現です。
”二千二十年、世界は核の炎に包まれた。”
”二○二○年、世界は核の炎に包まれた。”
上の例でも間違いではないのですが、個人的には下の例の方が読みやすいのではないかと思っています。これは扱う桁数にもよるので、適宜選択していくことになります。
空行の使い方について
特に重要になるのが、この空行の使い方です。
この項では二つに分けて考えていきます。
台詞の前後に入れるべきか問題
一般的に書籍化されている小説には、台詞の前後に空行は入れません。空けることでページ数がかさんでしまうので、当然ですね。
一方、WEB小説では空行を空けることが多いようです。これには可読性の向上に繋がるというメリットがあります。
pixivでの所感ですが、空行を空けるようにしてからの方がブクマ率があがったので、最後まで読んで貰える可能性が高まったように思います。
他方、デメリットもあります。それは台詞しか読んで貰えない可能性が高まる、という点です。
約一万文字(読了目安は二十分)の作品を投稿して三分後にコメントを頂いたことがあるのですが、台詞しか読んでいないと思われます。その方が速読の達人なら話は別ですが。
地の文での空行の役割
続いて地の文での用法ですが、いくつかありますので順を追って説明していきます。
1.場面転換に使う
何行かの空行を開けて場面転換を示唆します。
これは私の場合ですが、完全に別のシーンにする時は「*」などの記号を並べて場面転換を示し、同じシーンの中で時間が進んだことを表現する為に空行を何行か入れることがあります。
2.強調させる為に入れる
例えばですが、通常は地の文と台詞に空行を一つ空けているとします。
強調したい場合は空行を二つ入れ、その間に入った台詞を強調すると言った具合です。
地の文でも同じく、重要であることを明示する為に空行を入れるのも手法の一つです。
3.読むタイミングをコントロールする
文章を読み進めていると視界の端に次の文章が入って来てしまって、それを脳が処理してしまうという現象が起きます。つまりその気がなくても意図しないタイミングで先の文章を読んでしまう、ということです。
これを回避する為に空行を入れ、スクロールした先に重要な台詞や文章を置く、という方法でプチネタバレを避けることができます。
またレアケースですが、pixivのように改ページ機能があるサイトでは空行だけのページを作って「なんやかんやあったんだな」と想像させる、という手法もあります。
4.エモさの演出
正直に言いますが、私はあまり好きな表現方法ではありません。
地の文をやたら短く区切って空行を入れると何となくエモーショナルに感じますが、中身が伴っていないと見せ方を工夫しただけの小手先の技術になってしまいます。
WEB小説ですとスクロールする量も増えますし、エモーショナルな演出は小説表現を高めて実現してもらいたいものです。
一方、その方が読みやすい、たくさん読んだ気になれるという需要もあるようなので、一概に避けるべし、とは言えません。
二次創作で気をつけるべきこと
上記までは通常小説を書く上でも通用する小説表現の話でした。
ここからは二次創作だからこそ、気をつけるべきことを書いていきます。
そのキャラ、本当にそんなこと言うか?
一番多いのが「いやそうはならんやろ」とツッコミを入れられそうなキャクターの読み違えです。これはキャラ崩壊やギャグでは意図的にされることはありますが、もっとも気を使うべき事項と言えるでしょう。
例えばの話ですが、
原作では一切嘘をつかないキャラなのに、嘘をつく。
メチャクチャ暗い性格のはずなのに、やたらポジディブな発言をする。
二次創作ではありがちな改変を楽しんでいる人もいますが、原作ファンからすれば興醒めですよね。
これら改変を明示的にする為に古くは『スパシン』、近年では『HACHIMAN』といったジャンル毎に特定のタグを付けて棲み分けているケースもありますが、そうでない場合は一番気をつけるべきです。
だってそうしないと話が進まないし⋯⋯と考える方もいるでしょうが、そうならないように物語を構成するのが腕の見せ所でしょう。
登場人物の心理描写
一人称視点で小説を書く時に気をつけなければいけないのが、地の文での心理描写です。
例えばですが、
アホっ子の設定なのにやたら難しい熟語を使う。
国語の成績優秀者という設定なのに、言葉の誤用をしている。
このようなケースがあると、折角の作品に水を差す結果となってしまうでしょう。
誤用の多い例ですと『王道』という言葉があります。
これは『定番』という意味で誤用されることが多いですが、本来の意味は『近道』または『帝王が仁徳をもととして国を治めるやり方』です。
このような間違いを完璧人間キャラがしていたら、やはり違和感がありますよね。
言葉の意味に自信がない時は、ちゃんと調べて使いましょう。そのクセを付けると、調べる際に色々な言葉に触れるので結果として語彙も増えます。
それぞれの登場人物の一人称
小説原作の作品では一人称で誰の台詞かをわかりやすくしているケースが多く、
『私』『わたし』『あたし』『あーし』『うち』
『俺』『オレ』『僕』『ぼく』『我』『わい』
などなど、漢字やひらがな、カタカナでそのキャラを明示していることがあります。ラノベ原作のアニメから入って、原作を読まないまま二次創作する人は間違う可能性が高いです。
原作ファンにしてみれば混乱の元になりますので、可能な限り避けたいですね。
書き終わった小説について
書き終わるとすぐに公開したくなる気持ちになるでしょう。
しかし、もしあなたがより良い作品にしたいと思っているなら立ち止まるべきです。
そう、重要な作業である推敲が待っています。
推敲とは出来上がった作品に対してより良いものにしようと読み返し、考え抜くことです。また同時に、校正もしていくことになります。
私の場合はという話なりますが、最低でも三回推敲を繰り返します。最後に推敲する時は一日以上は空けて(本来もっと空けた方がいいですが)、一旦頭をリセットしてから推敲します。
繰り返しているとたまに辛くなってきますが、推敲をどれだけ妥協することなくできるかが作品の出来に直結します。
最後に校正補助サイト等を使って誤字、誤用がないかの確認も行いましょう。私のオススメは『Enno』です。
どちらかと言うとビジネス文書向けの校正サービスです。
他のサイトも色々試してみたのですが、文字数制限があったり人物名に反応して誤検知するものが多いので、こちらのサイトを使っています。
また特殊な例ですが、主にコーディングに使用されるエディタであるVisual Studio Codeに『テキスト校正くん』という拡張機能をインストールして校正するのも一つの手です。
主にWEB記事向けの機能になっていますが、同じ助詞が繰り返されているのに気付けたり、可読性向上の提案をしてくれたりと非常に有用です。
本来の使い方とは違いますが、Gitを利用してバージョン管理することも可能です。
最後に
ここまでお読み頂きありがとうございました。
熟練の作家さんであれば「もっと気をつけるべきことがあるだろう」と感じられることもあるかと思いますが、それらについては【応用編】で触れたいと思います。
この記事があなたの創作活動の一助になれば幸いです。
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