【(わりと)短編小説】ほらふきかっちゃん・6(最終話)
かっちゃんが死んだのは、それから二週間と経たない頃だった。かっちゃんは土間にうつ伏せになったまま、ひとり静かに死んでいた。死後、三日ぐらい経っていたという。訪ねていった母ちゃんが見つけた。苦しんだあともなく、安らかな寝顔のようで、死んでいるのに初めは気が付かなかった、と母ちゃんは言った。
「おそらく心臓でしょう」
と医者は言った。
「勝治は心臓が悪かったからね。あんたのせいじゃないよ、悠馬。そんなに泣かんでいい」
と母ちゃんは言い
「こんだけ悠馬に泣いてもらったら、勝治もしあわせだろう」
と、父ちゃんは言った。
僕は鼻水垂らしてぼろぼろ泣いて、仕舞いに鼻が詰まって息ができなくなるまで泣いた。
僕のせいだ。
僕は、学校の友達と遊ぶのが楽しくて、ぜんぜんかっちゃんに会いに行っていなかったんだ。梅雨が明けて、晴れの日が続いていた。かっちゃんは待っていてくれたかもしれないのに。
かっちゃんの葬儀はしめやかに執り行われた。通夜の席で聞いた話では、驚くことにかっちゃんはそれなりに金を持っていたということだった。僕のおじいちゃんとおばあちゃんが死んで、その遺産を父ちゃんと半分ずつしたから、結構な額の貯金があったのだという。そのかっちゃんの残した金は、かっちゃんに子供がいないから、全部国のものになるのだそうだ。
「あいつは生まれてから死ぬまで、ひとつも役にたたないやつだったな」
誰かが言って笑った。
「勝治は一体誰に言葉を習ったのかねえ。関西訛りのようなしゃべり方だったけどね」
また笑いが起きた。
僕はそっと席を離れ、裏手にあるかっちゃんの家に向かった。あれほど降らなかったのに、いまは夕立ちが降っている。入道雲の下は暗いのに、雲の向こうは橙(だいだい)に煌めいている。
かっちゃんの部屋を開けた僕は、そこで不思議な光景を見たんだ。土間の上に、いつもかっちゃんが置いていたように、茶碗がたくさん置いてあった。そこに雨粒が落ちて、りん、きらりん、からこん、ぼん、って、雨音が鳴っていた。バチバチとトタンを叩く雨の音は聞こえないで、そこにはただ静寂と、茶碗に落ちて鳴る雨音だけがあった。
「かっちゃんが置いたみたいだ」
僕はかっちゃんがいつも座っていた、一畳の畳のほうへ行って、入り口を向いて座ってみた。入り口からもうひとりの僕が、嬉しそうに扉を開けるのが見えた気がした。
〈おしまい〉