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【スポーツ心理学#12】保護者や親が出来る、子どものスポーツに対するやる気を高める接し方

こんにちは。早川琢也です。

最近は、博士論文を海外の学術雑誌に投稿する準備にひたすら勤しんでいます。

実績がないと箸にもかからないシビアな世界なので、自分からの情報発信に加えて、しっかり積むべき実績も積まないと、と奮い立たせています。

論文を書くこと自体は自分のスキルアップや情報のアップデートに繋がりますから、決して後ろ向きではありません。

むしろ研究したい身ですから、意欲的に取り組めています。


今回ご紹介する論文は直接自分の研究に関わりませんが、

保護者の関わり方が、子どものスポーツに対するモチベーションに大きな影響を与える可能性がある事を示した研究です。


親であれば、子どもがスポーツを楽しめたり将来の成長につながるかけがえのない経験をして欲しいと願うのものだと思います。

子どもがスポーツに対してモチベーションややる気を高める要素はいろいろありますが、

親だからこそできる子どものスポーツに対するモチベーションの高め方があります。

それが、子どもの自己決定や自分でやると決めた事を尊重してあげる事です。


親であれば、子どもがやろうとしている事に「こうした方がいいよ」と言ってしまいがちです。

もちろん、それ自体は決して悪いことではありませんし、親のアドバイスが必要な場面もあります。

あくまで強調したいのは、関わり過ぎて子どもが自分の自己決定の機会を奪い過ぎない事が大切である、という事です。

前置きが少し長くなりましたが、論文に移っていきましょう。論文はこちらです。

Autonomy support and control within mother-father parenting structures: A person-centered approach in youth sport




どんな研究だったのか?

・これまでの研究から、自律を支援する関わり方は選手の内発的なモチベーション(誰かや何かにやらされているモチベーションではなく、自分のスポーツに対する興味や上達したい意欲)を強くさせると報告されているので、そのことを前提にしている。

・268人の高校生アスリートを対象に、彼ら彼女らの両親の関わり方がスポーツをするモチベーションにどのような影響を与えているかについて調査した。

・自己回答式の質問によって、選手の目線から自身の親は自律性を支持する(自律性支援)ペアレンティングなのか、子どもをコントロールしようとするペアレンティングなのかを調べた。

・このペアレンティングのタイプと選手自身が、選手自身感じているモチベーションのタイプ(スポーツをやらされているか、自らの意思でやっているか)が関係しているのかも調べた。

・他にも、このペアレンティングのタイプによって、①選手が自分のスポーツに対してどの程度有能さを感じているか、②自己決定する機会に恵まれているか、③一緒にプレーする仲間との関係性、の3つが満たされているかについても調べた。
(この3つが満たされていると、スポーツに対して自発的に取り組むようなモチベーション(内発的な動機)が高まるとされている)




分析の結果

・分析の結果、4つのペアレンティングのタイプが見つかった。
 タイプ1. 選手の自律を支援する傾向が強い両親
 タイプ2.選手をコントロールしようとする傾向が見られる両親
 タイプ3.選手の自律を支援する傾向とコントロールする傾向の両方が見られる両親
 タイプ4.選手の自立を支援する傾向が弱い両親

・タイプ1のペアレンティングを受けている子どもは、内発的な動機が高まりやすく、自分自身の意思でスポーツをしている実感も持てている。

・反対にタイプ2のペアレンティングを受けている子どもは、内発的な動機が低く、スポーツはやらされていると感じている。

・子どものモチベーションのタイプ(やらされているか、自分の意思でスポーツをしているか)は、子どもの親のペアレンティングのタイプを予測する目安になることがわかった。




つまりどういうことか?(結果に対する考察)

この研究結果から分かったことは、親が子どもの自己決定やスポーツをやりたい気持ちを尊重すると、子どもは意欲的に(内発的に)スポーツに取り組む傾向があることでした。

一方で、親が子どもにスポーツをやらせたり、子どもがスポーツをしている時に「こうしなさい」とコントロールしてしまうと、子どもがスポーツをする意欲が低下してしまうこともわかりました。

そして、親がどんな態度で子どもに接しているのかは、子どもの態度(スポーツに意欲的か、何となくいやいややっているか)を見ればある程度予測が立つことも、この研究から分かりました。




この論文に対する個人的な考え

この結果自体は、そこまで驚くような新しい発見ではないかもしれません。

しかし、経験的に感じていた事を研究を通して明らかにしたことは説得力もありますし、最もらしい傾向として説明することもできます。


いわゆる「ヘリコプターペアレンツ」と言われる、子どものやることなす事に関わってしまう両親の下では、物事に対して受け身になてしまったり、

スポーツに限らず頑張って取り組んでいる事へのやる気を失わせてしまう事になりかねません。


ここは親としては悩ましい部分かもしれません。

もし、「このスポーツをやって欲しい」と思っていたら尚更でしょう。

ですが、初めのきっかけとして「このスポーツやってみない?」と勧めるのは決して悪いことではありません。

まずは、スポーツクラブに連れて行ってみて、その時に子どもがやりたいかどうか聞いてみましょう。

そこで「やりたい!」と答えたらやらせてあげればいいですし、もし「う〜ん」と乗り気でなければ、他のスポーツに触れる機会を作ってあげるのが、

結果的に子どもが意欲的に取り組めるスポーツに出会えるチャンスを増やします。


お子さんがスポーツをやっている保護者の方は、「何か今日は練習行きたくない」と言ったときに、

「そんな事言わずに行ってきなさい!」と言ってしまうこともあるかもしれません。

その時は、グッと堪えてなぜ行きたくないのかを聞いてみて下さい。

その理由を聞いたあとに、改めて自分の責任で練習に行くか行かないかを決めるように促しましょう。


今回ご紹介した研究のポイントは、親が子どもの自己決定を尊重した方がそのスポーツに対する意欲が高まる、という点です。

上の例ですと、休む事も自己責任なのだと子どもが認識することが大切です。

慣れないうちは、「自分で決める」という行為は難しく感じたり違和感を感じると思います。

ですが、「自分で選んだことは自分の責任」と思えるようになれば、スポーツに取り組む姿勢も少しずつ変わってきます。


普段何気なく生活していると、色々な事が予定調和だったり、何となくでやってしまっている事って多いかもしれません。

ですが、本来は小さなことでも「自分で決めた」という感覚を持てると、仕事でも勉強でも気持ちの入り方が変わってくるものです。

今回の内容はスポーツをしている保護者と子どもが対象でしたが、ご自身に置き換えてみても得るものが多い内容だと思います。


早川

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早川 琢也, Ph.D.
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