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【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.26

大人の流儀

 伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。

 時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。

 帯に自筆で「ちゃんとした大人になりたければこの本を読みなさい」と記しています。

 ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。



「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」から

伊集院 静の言葉 1 (76)

 
 ”途方に暮れる”という言葉がありますが、言葉は知っていても、途方に暮れるとはどういう精神状態かわからなかったんです。父の気質を受け継いでいる面があったのか、喧嘩やいさかい事に平気で首を突っ込み、何とか切り抜けてきたものですから、どんなことでもきちんと対処すれば解決すると思っていたんです。ところがその夜、自分で自分を含めた世界が訳がわからなくなってしまったんです。

大人の流儀 1 伊集院 静                               




「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」から

伊集院 静の言葉 2 (77)

 
 甘えと言えば甘えでしょうが、すべてが訳がわからなくなり、生きること死ぬことがどうでもよくなってしまったんです。”途方に暮れる”という状況でした。彼女の入院中に御巣鷹山の事故があり、彼女と親しい宝塚出身の女性が亡くなりましたが、それさえもどこかで他人の死としてしか捉えられなかったんです。

大人の流儀 1 伊集院 静                               



「愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々」から

伊集院 静の言葉 3 (78)

 
 途方に暮れてしまってからはよく覚えていませんが周囲は皆ひどく心配したようです。救ってくれたのは肉親であり、恩師や友人、後輩であり、もうひとつは酒ですね。眠れない状況は酒が救ってくれました。アルコール依存症にはなりましたが、これも先輩が救ってくれました。自分は何もしてないんですね。すべて自分以外の人の助けというか、慈愛のようなものに抱かれていたのでしょう。

大人の流儀 1 伊集院 静                               



出典元

『大人の流儀 1』
2011年3月18日第1刷発行
2011年7月14日第11刷発行
講談社



✒ 編集後記

『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。

伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。

伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。

🔷 『大人の流儀 1』の最後の章愛する人との別れ~妻・夏目雅子と暮らした日々についてお伝えします。

しばらく続きます。

「途方に暮れてしまってからはよく覚えていませんが周囲は皆ひどく心配したようです」

前回にも書きましたが、妻の死という大きなショックを受け、私は食欲が減退し、まったく食べられなくなってしまったのです。

かろうじて、胃は飲み物を受け付けてくれましたので、衰弱することはありませんでしたが、一時的に20キロ近くも体重が激減しました。

同居していた、母、姉、娘の可奈がたいそう心配し、気遣ってくれました。
そのおかげで救われました。

伊集院氏と違い、私はほとんど酒は飲みませんでしたので、酒に救われるということはありませんでした。

うつ状態になりましたので、自死するのではないかと心配していろいろと声をかけてくれたことを思い出します。

妻が亡くなってから2年後には母が、そして翌年には姉が相次いで他界しました。妻の死という哀しみが少し癒えてきたところで、肉親に立て続けにこの世を去られたことに対し、私は何でこんなに運が悪いのだろうと落ち込みました。


妻が亡くなったのは、2015年8月8日午前4時33分のことでした。
なぜ、正確に時刻を覚えているかと言いますと、葬儀が終わりしばらく経ってから、目が覚めた時、目覚まし時計を見たら自分でも信じられないことが起こったのです。

不思議な現象

 由美子が亡くなってからしばらくすると、不思議なことが起こりました。偶然だとは思うのですが、何度考えても不思議な現象としか思えません。

 一回目の不思議な現象は、八月二十二日午前四時三十一分に目が覚めたことです。由美子が亡くなってからちょうど二週間後になりますが、わずか二分の誤差でした。これだけなら単なる偶然で済ませましょう。

 ところが、これだけではありませんでした。九月一日午前四時三十三分(由美子の死亡が確認された同一時刻)に目が覚めました。

 さらに四十九日法要(九月二十七日)が済んだ後の、十月十三日午前四時三十二分に目が覚めたのです。」

【回想録 由美子のいなくなった夏 亡き最愛の妻への想い 第61回】から抜粋)




夏目雅子さん ガールズログから





🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。


<著者略歴 『大人の流儀』から>

1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。

91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。





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藤巻 隆
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