
【大人の流儀 伊集院 静 心に響く言葉】 Vol.56
大人の流儀
伊集院 静さんの『大人の流儀』から心に響く言葉をご紹介します。私は現在『大人の流儀』1~10巻を持っています。このうちの第1巻から心に響く言葉を毎回3件ずつご紹介していこうと考えています。全巻を同様に扱います。
時には、厳しい言葉で私たちを叱咤激励することがあります。反発する気持ちをぐっと堪え、なぜ伊集院さんはこのように言ったのだろうか、と考えてみてください。しばらく考えたあとで、腑に落ちることが多いと感じるはずです。
帯には「あなたのこころの奥にある勇気と覚悟に出会える。『本物の大人』になりたいあなたへ、」(『続・大人の流儀』)と書かれています。
ご存知のように、伊集院さんは小説家ですが、『大人の流儀』のような辛口エッセーも書いています。
「被災地の海辺を歩く人がいる」から
伊集院 静の言葉 1 (166)
ニュースは原発事故と菅直人下ろしをくり返していた。震災を忘れたのか。
被災地に近かったせいか、原発事故での東京電力の対応に憤怒し、政治家の無能振りに呆れた。鳩山ー菅と続いた民主党のトップの能力のなさと、大半の今の政治家がいざという時に何もできないことに驚愕し続けた。
ぼつぼつと知人の行方不明者が確認させ、その報を聞く度に暗澹たる気分になった。
「被災地の海辺を歩く人がいる」から
伊集院 静の言葉 2 (167)
自宅の家屋は半壊の査定を受けた。
そう言われると、この家も危なかったのだと地震の大きさにあらためて恐怖を感じた。
世話になった人への礼状を書きながら、この半年間が、数日間のごとく過ぎたのだと思った。
余震、原発事故への緊張感と”乗り切らねば”と言い聞かせて日々を暮らすことで、知らず知らずのうちに精神が昂揚していたのだろう。
睡眠不足が半年間続いていた。
「被災地の海辺を歩く人がいる」から
伊集院 静の言葉 3 (168)
朝刊には、数が減ったものの毎日遺体が発見された人の名前が載っている。
まだ何人もの人が、毎日、海のそばを歩いている。
私の弟が海難事故で遺体がなかなか揚がらなかった時の母がそうだった。
一日中、台風で荒れる浜辺を弟の名前を呼んで歩いていた。
「母さんに休むように言いなさい」
父に言われて波打ち際の母に声をかけに行くと、私は大丈夫です、と驚くほど気丈に返答された。
⭐ 出典元
『大人の流儀 2』(書籍の表紙は「続・大人の流儀」)
2011年12月12日第1刷発行
講談社
✒ 編集後記
『大人の流儀』は手元に1~10巻あります。今後も出版されることでしょう。出版されればまた入手します。
伊集院静氏は2020年1月にくも膜下出血で入院され大変心配されましたが、リハビリがうまくいき、その後退院し、執筆を再開しています。
伊集院氏は作家にして随筆家でもあるので、我々一般人とは異なり、物事を少し遠くから眺め、「物事の本質はここにあり」と見抜き、それに相応しい言葉を紡いでいます。
🔷 「自宅の家屋は半壊の査定を受けた。
そう言われると、この家も危なかったのだと地震の大きさにあらためて恐怖を感じた」
体験者でなければ書けない文章です。第三者が同じような文章を書いても説得力がないのは言うまでもありません。
体験したか否かの差は限りなく大きい、と私は考えています。
数多くの記事を読んでいると、実体験がベースになって書いたものか、伝聞に基づいたり、想像して書いた文章かは判るものです。
仮にフィクションと謳っていても、実体験があるかないかはじっくり読むと分かってきます。イマジネーションだけでは限界があります。
🔶 東日本大震災から11年:被災地と復興の現状
⭐ 出典元: 公営財団法人ニッポンドットコム 東日本大震災から11年:被災地と復興の現状 2022.03.09
🔶 伊集院静氏の言葉は、軽妙にして本質を見抜いたものです。随筆家としても小説家としても一流であることを示していると私は考えています。
<著者略歴 『大人の流儀』から>
1950年山口県防府市生まれ。72年立教大学文学部卒業。
91年『乳房』で第12回吉川英治文学新人賞、92年『受け月』で第107回直木賞、94年『機関車先生』で第7回柴田錬三郎賞、2002年『ごろごろ』で第36回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。
作詞家として『ギンギラギンにさりげなく』『愚か者』などを手がけている。
⭐ 原典のご紹介
⭐ 私のマガジン (2022.08.13現在)
いいなと思ったら応援しよう!
