[新型コロナウイルス影響インタビュー]第4回 写真家の場合(後編)
※ 前編からの続きです。
支援をあてにするより、写真家としてやるべきことをやる
──政府や自治体の支援策に申し込んだりしてます?
まだ全然やってない。自分が給付を受けられるか調べてみないとわかんないから。
──政府の持続化給付金は申込みも簡単になってるみたいですよ。
そうなんだ。ただ、収入が減るのは間違いないんだけど、今の時期に去年に比べて収入が半減しているかというとわかんないんだよね。僕の場合は仕事をしてた時と入金される時ってかなりのズレがあるから。例えば撮影自体はだいぶ前に終わっててもその他の作業がまだ続いてて入金がかなり後になるから。だから去年の事情を考えると、減るのは夏くらいじゃないかと思う。そうなると対象になるのかなと。
──それすごくよくわかります。僕も全く同じで、原稿を納品してから実際に原稿料が入ってくるまでってかなりのタイムラグがありますからね。単行本の場合、半年から1年くらいになることもザラですから。というか、あまり政府や自治体の支援をあてにしてないんですか?
うん(笑)。だってどうなるかわかんないじゃん。二転三転してるからさ。
──融資も受けるつもりはないんですか?
全然ないね。だって融資って結局借金でしょ。山下さんも同じだと思うけど、僕らフリーランスって1年の間で収入の波があるじゃない?
──めちゃくちゃありますね。収入がゼロの月も普通にありますし。
でしょ? だからこれまでも2、3ヶ月収入がない時ってザラにあるから、そんなにどうしようって顔面蒼白になったりジタバタはしないよね。それよりもさっき言ったように将来生き残るために、今やるべきことをやった方が時間の使い方としてはよっぽどいいと思うだよ。
──確かにおっしゃる通りですね。
不安はあるけど気にしてもしょうがない
──国や自治体から「出かけるな、家にいろ」って言われてますが、私生活はどんな感じですか?
不要不急の外出はしてないよ。散歩か本屋かスーパーに行くくらいかな。行動範囲は半径10キロ以内。
──ストレスはないですか?
これからどうなっちゃうのかなっていう、今後の予想が全くつかない不安はあるよね。さっきもちょっと話したけど、僕自身の問題だけじゃなくてクライアントの業績の問題もあるわけじゃない? これからクライアントがどういうところにお金を使うようになるのかが見えてないから。今は気にしてもしょうがないから、あまり気にしないようにはしてるんだけど。
──ではイライラしたり不安で夜眠れないって感じでもないですか?
お酒呑んで寝ちゃう(笑)。
──それいつもじゃないですか(笑)。
そうそう(笑)。
──では特に困ってることもなく?
撮影に行けないから困ってるって以外には特にないかな。そもそも普段から在宅の仕事が多いからね。
手段と目的を履き違えてる
──政府の一連の新コロ対策についてはどう思います?
これは全体的な話なんだけど、法律とか制度って何かをするためにあるわけでしょ? でも日本の発想ってこの法律や制度があるからこのやり方しかできないって感じじゃないですか。いや本来の目的はそこじゃないでしょ、今は非常時なんだから非常時に発生した問題を解決するためには法律を変えるとか、非常時なりの対応をしなきゃいけないんじゃないの? って思うことがけっこう多い。つまり、手段にこだわりすぎちゃって本来の目的がどっかに行っちゃってるんですよね。
手段が目的になっちゃってるのはよくある話で、政府がやってることに限らずいろんなところで垣間見えちゃって、どうにかならないかなあとは思ってます。
伸びる業種に適応
──ほかに今後について考えていることは?
さっきも話した通り、アフターコロナがどうなるかを考えて行動しないとね。絶対に同じに戻らないから。
──確かに。絶対悪い方向に変わりますよね。新コロで社会全体の経済活動そのものがシュリンクするのが恐いです。
そうだね。でも悪い方向に変わるかどうかはその人が置かれた状況や立場によるよ。確かに新コロの波で影響をもろにうけて深刻なダメージを負ってる業種はどうなるんだろうと心配だよね。だけどその一方で、インフラとか医療とかスーパーとか新コロ影響を受けない業種や、むしろ業績が上がる業種もあると思うんですよ。例えばデジタル関係はすごく伸びると思うから、自分の仕事もそっちに適応できるようにしておかないとは思ってる。
印刷媒体というか、リアルの物体にこだわってるといかんのかなあと思いますよ。今後モノは二極化するんじゃないかな。モノ自体に存在価値があるものとそうじゃないものに。例えば雑誌の存在価値って紙でできた物体そのものじゃなくて、情報にあるわけじゃないですか。だからそういうものはどんどんデジタル化していくと思う。でもモノとして持っておきたいなと思うものは残る。写真集でもどうしても紙として所有しておきたいというものは残るだろうけど、ごくわずかだと思うな。
──写真はデジタルでも全然きれいですもんね。
印刷物の写真って反射で見るけど、デジタルの写真はモニタで見るから透過なんだよね。だからモニタの方が色がきれいに見えるんだよ。
ただ、今は本や雑誌ってKindle版と印刷版で値段があんまり変わらないんだよ。だからたぶん印刷版の方が売れてるんだけど、印刷コストがないんだからもっとKindle版は安くなると思う。ただ、印刷版があるからKindle版が売れてるんだよね。それは認知度の問題が大きくて、例えば有名な著者の漫画や本の電子版はすごく売れるけど、そうじゃない無名の著者の作品は電子版だけ出しても、そもそも存在に気づいてもらえないから売れない。そこが難しいとこだよね。例えばSNSで何万人もフォロワーがいる有名な人がKindle版の写真集を出せばある程度は見込めるのかもしれないけどね。
自分の写真の価値をどう伝えるか
あとは、こないだブログにも書いたんだけど、僕の写真ってInstagramなどのSNSではあまり「いいね」されないんですよ。
──あんなにすごい写真なのになんでなんですかね?
SNSでバズる写真って見た人が自分でも簡単に撮影地に行って撮れそうと思える、身近な写真なんだよ。でも僕の撮ってる写真ってその対極じゃん。
──確かに。西澤さんの写真って全部「立入禁止の向こう側」ですもんね。
そうそう。だから見る人は絶対撮れないと思うから「いいね」を押してくれないんだと思う。そんな状況の中で僕の写真の価値を知ってもらうにはどうすればいいのかなっていうのを考えてる。
僕が思うにSNSでバズってる写真って今どきのものじゃん。言い方を変えると5年後、10年後には古くなっちゃう写真。その辺の差別化を意識して、今の価値基準とのズレを補正して、いいところはいいというアピールをしていかないといけない。それをどう頭の中で整理するかが最近のテーマかな。
──難しいテーマですね。
それはどの業種でもあると思いますよ。デジタル化が進むといろんなところで参入障壁が下がるから。まだどういうふうに世の中に対して自分の写真をPR、プレゼンすればいいのか、はっきりと見えていません。でも、その他の写真家と差別化したり、自分の写真の価値をきちんと知ってもらうために、それをしっかり考えてやっていかないといけないと思ってます。
やりたいこと・できることをどんどん発信すべき
それと、これまでの仕事を通じて自分が積んできた経験や磨いてきたスキルを使って企画を立てて、築いてきた人脈を駆使して企業に売り込んでいくことも積極的にしていこうと思ってます。ただ、いわゆる営業みたいのって、買い叩かれるだけだから、向こうから依頼してくれる状況にしなきゃいけない。
さっきも言ったけど、今までの僕の広報活動のメインだった写真集を出すことが今後難しくなりそうだから、それ以外の広報活動としてはWebサイトを充実させるのがベストかなと。
要するに、自分が今後やりたいことやできることをどんどん世の中に向けて発信しないと生き残れないってこと。誰も僕の心の中を読んで仕事を発注なんかしてくれないから、発信する必要は高くなってると思うんだよね。
──確かにその通りですね。今日は貴重なお話、ありがとうございました。
以前、山下さんにしてもらったインタビューの時って、これまでの経験を元に話ができたから割と理路整然と話せたけど、今日って特に今後についての話は僕自身、わからない渦中で喋ってるからまとまってないと思うよ。
──全然そんなことないですよ! すごく有意義なお話でした。僕自身も西澤さんのお話を聞いて、このままではいかん、何かやらねばとやる気が湧いてきました。
そう? それならいいけど(笑)。じっとしててもしょうがないから、お互いやれることをやりましょう。
──はい! 今後仕事として何か一緒にできれば幸いです! よろしくお願いします。
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