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正書法・方言と大人の学習者(ウェールズ語)

※以下、勉強中ですが、誤りや私の誤解、読みづらい点などあればご指摘ください。

 ウェールズ語には正書法は存在するが、話し方になると方角で大分しても4つの方言が存在しており*[1](The Welsh Academy, 2008)、一般的にも「北部の方言」「南の方言」と認識されることが多い。北部の方が話者人口も話者率も高いことから、北部での話し方をベースにしている教材が多いようである。このため、私が参加した(南部の)成人向けの初学者の講座では出席者の「私がDulingoで見たのと違う」「学生時代に習ったのと異なる」「自分の記憶違いだろうか」という質問や発言が散見し、講師側もそれに応じる形で「(北部とは異なり)南部ではこう発音する」「そう表現する地方もあるだろう」といった受け答えをされていた。
 
 第2言語学習において、ネイティブらしい会話の取得は、教える側・学ぶ側にとって必ずしも期待されている条件ではない。しかし、地域の少数言語においては、言語復興の観点から、そういうわけにはいかず、アイデンティティと正当性の観点から「ネイティブらしさ」が求められるケースが自ずと増える。ウェールズ語もその例外ではない(Williams & Cooper, 2021)。成人のウェールズ語学習者を調査した研究によれば、概してウェールズ外からの学習者(学生時代にウェールズ語の学習経験がない)の方が自身の発音をネガティブに捉えており、ウェールズ出身者以上にアクセントを矯正したいと考えている。そして、学習レベルが上がるにつれて、どの学習者も徐々に「ネイティブらしく話す」ことを気にしなくなる傾向が見られる(Williams & Cooper, 2021)
 
 実際、現代ウェールズ語は地理的な要因もあり、英単語を混ぜて会話されることが多く、借用語や新語に加えて、ウェールズ語で思い出せなかった単語を英単語に言い換えて発言しても(聴く側も英語が理解できるため)意志の疎通が図れるほか、さほど違和感もない。これは著者の経験上、手話学習者やそのコミュニティにも似たようなコミュニケーション方法が見られる。例えば、日本手話での会話中に学習者側がわからない表現にぶつかった場合、日本語での平仮名表記を指文字で代用することで、会話中の分からない単語の埋め合わせに使ったり、手話話者にどう表現するかを質問する際に使ったりできる。



*[1] 方言については、北西(Venedotian)、北東(Powysian)、南西(Demetian)、南東(Gwentian)に大分される。なお、話し言葉が大きく異なる中でも正書法が確立されているのは、記述言語としての継続使用されていたことによる影響が大きい(The Welsh Academy, 2008)。例えば、1536年のイングランドによる併合以降も、教会ではウェールズ語の聖書(1588年出版)が使われていた。近代では1889年から1929年までバンゴール大学でウェールズ学の教鞭をとったジョン・モリス=ジョーンズの功績が大きい(Davis, 2014)

参考文献
- The Welsh Academy. (2008). "The Welsh language", The Welsh Academy Encyclopaedia of Wales
- Williams, Meinir, and Sarah Cooper. (2021). "Adult New Speakers of Welsh: Accent, Pronunciation and Language Experience in South Wales" Languages 6, no. 2: 86. https://doi.org/10.3390/languages6020086
- Davies, Janet. (2014). "The Welsh Language: A History"

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