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ウェールズ語とその言語景観
同系のケルト諸語と比較しても、ウェールズの言語景観は独特である。例えば、スコットランドゲール語と英語の二言語表記は現地語話者率が高いハイランド地方に限定されている。アイルランド語はそもそも憲法で第一公用語であると定められていることに加え、道路標識の場合は斜体で表記されるなど、現地語と英語とを同等のものとして扱っていない。対してウェールズ語は話者率とは無関係にウェールズ全域で使用されており、法的にも視覚的にも英語と同じ位置づけ(色・大きさ・フォントが同じ)で扱おうと試みていることが見てとれる。
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単に二言語表記ということであれば、スイスやオランダのフリースラント地方など、欧州内では特に、いたるところで見られる言語景観かもしれない。しかし多くの場合、そこに併記される現地語はその地域でのマジョリティの言語である。先述の通りウェールズの場合、むしろ現地語がマジョリティになっている地域の方が少数派でありながら、域内全てで二言語表記となっている。この点においてウェールズ語の表記は特徴的と言えるだろう。
加えてウェールズ英語圏の地域であるが、シンガポールやインドのようなESLの国でもなく、アメリカ、カナダ、オーストラリアと同じ英語が第一言語の国である。そのような国が意識的に英語以外の言語を社会的に使用しているのは珍しい現象ではないだろうか。日本のような非英語圏の国までもが英語の標識を拡充している昨今。言うなれば、ウェールズの言語政策は、世界的に進む英語化を巻き戻すような動きである。