チェジュ航空7C2216便胴体着陸事故について思うこと
◆事故の概要
日本では20数年ぶりとなる大規模な旅客機事故と、その前日に発生した未曾有の大地震で始まった2024年ですが、その衝撃が未だ尾を引くなか、年の瀬に隣国で悲しい事故が発生してしまいました。
12月29日(日)午前9時頃、韓国・全羅南道の務安国際空港で、バンコク・スワンナプーム国際空港発のチェジュ航空7C2216便(B737-800・機体番号HL8088)が胴体着陸したものの、滑走路内で停止できずオーバーラン。
そのまま滑走路端の進入灯の土台になっていた壁に激突し大破、炎上し、乗員6名・乗客175名のうち乗員4名・乗客175名の計179名が死亡、乗員2名が重傷を負う大惨事になりました。
韓国国内で発生した旅客機事故としてはもっとも多い犠牲者(注)を出したこの事故は、事故を起こしたチェジュ航空が日本の12都市に乗り入れており、日本人にもなじみの深い航空会社だったことも相まって、韓国はもとより日本の社会にも大きな衝撃をもたらしています。
(注)韓国国外で韓国の航空会社の機体が起こした事故では、大韓航空機007便撃墜事件(1983年・269人死亡)、大韓航空801便グアム墜落事故(1997年・228人死亡)などがあります。
◆現段階で分かっていること
事故原因については、現時点では事故機のフライトレコーダー、ボイスレコーダーの解析などが実施されておらず目下調査中とのことです。
現時点では、
・着陸体制に入った事故機に対し、管制塔からバードストライクへの注意喚起があった
・胴体着陸直前、事故機は右エンジンから煙を出していた。
・胴体着陸直前、事故機から緊急事態宣言が出されていた。
・事故機には過去にエンジントラブルの経歴があった。
ということが判明しており、おそらく着陸寸前にバードストライクもしくは他の理由によりエンジンに不調が発生、その結果として燃料を投棄できず(注2)、ランディングギア(車輪)も何らかの事情で出せない状態で胴体着陸を強いられたのではという見方が出ています。
ちなみに、事故機は務安国際空港の滑走路(2800m)(注3)に胴体着陸を試みるも、通常の着陸と比べてかなり速いスピードでの進入となったため、停止しきれずに滑走路端の壁に激突する結果となりました。
この壁がなければ、滑走路がもう少し長ければ犠牲者は出なかったのではと指摘する声もあります。
(注2)事故機(B737-800)には燃料を投棄する装置が備えられていません。
(注3)延伸工事中のため、実際に供用していたのは2500m
◆大惨事を機に安全を強化してきた韓国の運輸業界
日本でも、1972年の北陸トンネル列車火災事故後に鉄道車両の不燃化対策や走行中の列車内での火災発生時の対応が見直された例があるように、韓国でも近年発生した交通機関での大惨事を教訓に、一層の安全対策強化が進められた例がいくつかあります。
■2003年大邱地下鉄放火事件(192人死亡)
自殺志願者の男が大邱地下鉄1号線の電車に放火し、192名の犠牲者が出たこの事件をきっかけに、韓国では鉄道車両の内装の不燃化や非常用ドアコックの案内の改良、そして駅構内の防火設備の増強が図られました。
韓国の一部の地下鉄車輌でステンレス製の座席が採用されたのは、この事件がきっかけです。
また、日本や中国といった他国でも、この事件を受けて鉄道の火災対策について見直しが行われました。
現在、大邱広域市には「大邱市民安全テーマパーク」なる施設が設置され、事件の被災車両や犠牲者の遺影、鉄道の火災事故への対策に関する各種資料を展示し、放火事件の悲劇を語り継ぐとともに鉄道の安全についての啓発活動を実施しています。
■2014年セウォル号沈没事故(304名死亡・不明)
今回のチェジュ航空機の事故が起きた場所からほど近い全羅南道の珍島沖で、修学旅行生を乗せた仁川港発済州島行きのフェリー「セウォル号」が転覆し沈没。船長はじめ乗組員の不手際が相まり、最終的に乗船していた304名と捜索活動に携わった5名、救助後に自殺した1名の合わせて310名が死亡・行方不明になったセウォル号沈没事故。
前途有望な高校生が多数犠牲になったこともあり、韓国社会に大きな衝撃を与えた事故でした。
海運業界ではなく航空業界の話ですが、事故後の2016年に仁川国際空港駅(現仁川国際空港1ターミナル駅)を利用した際に、駅コンコースに「Aviation Safety Lounge」という施設を見つけました。
救命胴衣や非常用脱出設備など、旅客機の安全に関する啓発展示を行っているスペースで、大邱地下鉄放火事件やセウォル号沈没事故を機に、市民の間で今一度公共交通機関の安全についての意識が高まったことを伺わせました。
◆まとめ
バードストライクもしくはその他の理由によるエンジントラブルで航空機が緊急着陸を試みるも、滑走路内で停止できずに大破・炎上した今回の事故ですが、現時点で分かっていることを見る限り、韓国のみならず日本を含め世界のどこで発生してもおかしくない種類の事故であるのではとみられます。
最後になりますが、7C2216便の事故で犠牲になられた方のご冥福と、負傷された方の早期回復をお祈りします。
そのうえで、事故原因の早期の解明を願って結びとさせていただきます。