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新たなアニメ王国となった岡山県・香川県に見る観光振興の可能性


はじめに


まずは問題です。
「日本の全47都道府県のなかで、ご当地アニメが多いというイメージの都道府県を挙げてください。」

おそらく多くの人が、
岐阜県(『ひぐらしのなく頃に』、『君の名は』、『氷菓』、『聲の形』など)
埼玉県(『クレヨンしんちゃん』、『らき✩すた』、『秩父三部作』(注)など)
あたりを想起されるのではと思います。
(注)埼玉県秩父市が舞台となった岡田麿里さん原作のアニメ映画三作「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない」、「心が叫びたがってるんだ。」、「空の青さを知る人よ」の総称。

実は、この両県の影に隠れがちですが、人気ご当地アニメで知られる地域は日本国内にまだまだたくさんあります。
西日本だと岡山県・香川県もその一つ。
近年になり、以下のとおり両県を舞台とするアニメ作品が次々世に出て、話題を呼んでいます。
今回は、この両県におけるご当地アニメと、それを活かした観光振興施策の秘められた可能性について論じてみます。

1.岡山県・香川県を舞台とする主なアニメ作品

「ささやくように恋を唄う」のヒロイン2人(京都・叡山電鉄のイベントにて)


「結城友奈は勇者である」のキャラクター(観音寺市内にて)


あくまで私の知る範囲ですが、近年の岡山県・香川県を舞台にしたアニメ作品をリストアップしてみました。

【岡山県】
「あさがおと加瀬さん」(岡山市が舞台)
「ささやくように恋を唄う」(岡山市・倉敷市が舞台)

「推しが武道館いってくれたら死ぬ」(岡山市などが舞台)

【香川県】
「ひるね姫~知らないワタシの物語~」

「からかい上手の高木さん」(岡山県倉敷市も舞台)
「結城友奈は勇者である」シリーズ(観音寺市ほかが舞台)
「うどんの国の金色毛鞠」(香川県全域が舞台)
「おへんろ。」(四国4県が舞台)

※は実写化済みの作品

2.聖地巡礼の長い歴史のある岡山県・香川県

小豆島・土庄町中心部の土渕海峡

もともと香川県には聖地巡礼の長い歴史があります。
1954年、瀬戸内の小さな村の小学校の女教師と児童たちを描いた壺井栄の小説「二十四の瞳」(1952年)が映画化された際、舞台が著者の故郷でもある小豆島と設定され、以後小豆島では映画のセットを利用した「二十四の瞳映画村」が開業するなど、同作を利用した観光客誘致が進められてきました。

一方、隣の岡山県では映画やアニメとは異なるかもしれませんが、古くから日本昔話「桃太郎」にまつわる伝承が昔からあり、地元の吉備津神社の伝承との類似性が指摘されているほか、名物の桃や吉備団子が桃太郎に関連付けた土産物として長年親しまれてました。

このような歴史のある土地であるからこそ、両県にはご当地アニメやドラマのロケ誘致といった文化が根付きやすかったという見方が出来るかもしれません。
実際に、岡山県フィルムコミッション協議会、香川フィルムコミッションといった地元団体によるロケ地誘致や撮影協力が実を結び、両県ではこれまでに数多くの実写作品のロケが実現しています。
上で紹介した「推しが武道館いってくれたら死ぬ」・「からかい上手の高木さん」のテレビドラマ版、映画版、「ささやくように恋を唄う」の主題歌を歌う「SSGIRLS」のMVも、こうした地元の団体を含む各方面の協力を得て両県で撮影されました。

3.ご当地アニメを活かした観光振興あれこれ

「結城友奈は勇者である」のキャラクターを装飾した自動販売機とタクシー
(2020年 香川県観音寺市)

ご当地アニメを活かした観光振興施策のなかでもメジャーなものが、
1.聖地巡礼目当てのアニメファンの誘客
2.コラボ商品の企画・販売

といったところです。

「1」についてですが、手近に国内のアニメファンの呼び込みを図るためには、
・聖地巡礼ガイドマップの作成
・公共交通機関との連携
→聖地巡礼客向けの乗り継ぎ時刻表の発行
→聖地巡礼客向け周遊バスの運行
→鉄道、バス、タクシーでのラッピング車両運行
・聖地巡礼スタンプラリーの実施
・聖地巡礼客向けのパックツアー、宿泊プランの発売

といった施策が考えられます。

「1」で挙げた様々な施策が功を奏した結果、聖地巡礼目当てのアニメファンの来訪が増えるとします。
そうなると今度は、さらなる経済効果の創出を図るべく、「2」のご当地アニメとコラボした地元の特産品の企画・販売が必要になってきます。
アニメとコラボした商品を企画・販売するにあたってはライセンス料が課題になることもありますが、ご当地アニメとコラボし付加価値の付いた地域名産の菓子や調味料、珍味、清涼飲料水、酒類はアニメファンのみならず一般の旅行客の目に留まることも少なくなく、一定の経済効果が期待できます。

実際に「結城友奈は勇者である」の舞台である香川県観音寺市では、駅前の観光案内所に同作のキャラクターを描いた自動販売機を設置しているほか、2020年時点では同作のラッピングを施したタクシーが運行されていました。
また、市内の和菓子店でコラボ商品が販売されたり、市内の旅館が聖地巡礼客向けの宿泊プランを売り出したりと、地元商工界もそれなりに盛り上がっているようです。

【参考】ワカマツヤ 聖地巡礼宿泊プラン(楽天トラベル)

「からかい上手の高木さん」の舞台である小豆島でも、同作とコラボした土産物が販売されています。

【参考】土庄町ホームページ

4.聖地巡礼目当てのインバウンド観光客の取り込み

岡山電気軌道の岡山空港リムジンバス

岡山市とその近郊には岡山城、後楽園、夢二郷土美術館、倉敷美観地区高松市とその近郊には栗林公園、瀬戸内国際芸術祭(直島)、四国八十八箇所霊場の札所など、インバウンド観光客の訪問が多い観光資源が数多く存在しています。
前項で紹介したご当地アニメの聖地もまた、インバウンド観光客にとっては魅力的な観光資源になる可能性を秘めているのではと思います。
幸いなことに、岡山空港と高松空港には近隣諸国の主要空港からの国際線が乗り入れています。
岡山空港の国際線就航地 ソウル・仁川国際空港、台北・桃園国際空港
高松空港の国際線就航地 ソウル・仁川国際空港、台北・桃園国際空港
            台中国際空港、上海・浦東国際空港

加えて、少し足を伸ばせば関西国際空港発着の充実した国際線ネットワークを利用することも可能です。

この3空港の存在を存分に活用すれば、関西国際空港から入国し、京阪神とその近辺のアニメの聖地を巡礼した後、鉄道か高速バスで香川県・岡山県に移動、両県のアニメの聖地を巡ってから高松空港もしくは岡山空港より帰国の途に就く、あるいはその逆のコースで関西と中国・四国のアニメ聖地を周遊する回遊ルートが成立し得ます。

このルートで近隣アジア諸国から、関西と中国・四国のアニメ聖地巡礼に訪れるインバウンド観光客の需要はそれなりにあると思います。
そうした層の需要を掘り起こし、観光客の来訪増に結びつけるためには、まずは近隣諸国の旅行会社への売り込みが肝要になります。
それとあわせて、自治体や商工会その他が多言語対応のサイトを開設、またリーフレットを発行し、手軽に聖地巡礼できる環境づくりを進めることが有効なのではと思います。
多言語対応のサイトやリーフレットについては、旅行者側が翻訳サイトやアプリを使えば済む話ではという意見もあるかもしれません。
ただ、翻訳サイトやアプリの精度には一定の限界もあるわけで、この点を考慮するとそれなりに語学力のある人に多言語対応のサイトやリーフレットを手がけてもらうことが好ましいのではと思います。

結び

ご当地アニメを生かした観光振興の実現にあたっては、アニメの制作者やプロモーター(広告代理店など)、そして地元の政財界、地域住民などが良好な関係を築き、綿密な協力体制を作ることが必要不可欠になってきます。
それだけではなく、聖地巡礼を目当てに訪れる観光客が求めているものと、受け入れ先になる地元の経済界、商工業者、サービス業が供給しようとするものの間に齟齬があれば得られる成果は期待されたものにはなりません。
実際に、観光客やアニメ制作者と地域の間にある認識のズレ、立地上の不便さなどの理由により、結果として街おこしに失敗したご当地アニメの例もあります。
国内外からの観光客を幅広く誘致するためには、相応の投資が必要ですし、また当初の見込みを超えた数の来訪者が押し寄せた場合はオーバーツーリズム、観光公害といった弊害が生じる場合もあります。

【参考記事】

このように、地域が真に観光客が求めるものを提供できるかどうか、コスト面の問題、観光公害への対策など、アニメ聖地巡礼を生かした観光振興に際しては解決すべき課題は数多いのもまた現状です。
それでもこうした課題を乗り越え、岡山県や香川県を舞台にしたご当地アニメの数々が魅力的な地域資源として、多くの観光客を呼び込み、人と人、人と地域、地域と地域を結びつける存在になって欲しいと期待して、結びとさせていただきます。



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