あっさりすぎるラストがいい。ドラマ【探偵が早すぎる】感想
久々にいいドラマを見たので、ドラマ自体の感想と、ラストシーンから連想した「出会いと別れ」の思い出を書きます。
※どこまでをネタバレというのか分からないけれど、ドラマの全体を通した雰囲気とラストシーンについて書いてます。
ドラマを見る基準
ドラマを見る時は、俳優と脚本家、放送時間などをトータルに見て決めている。演技派の俳優が好きだけれど、いい脚本は演技力を超越する。また放送時間帯を見れば各局の力の入れ具合を測ることができる。ただし力を入れているからといって好みかどうかは別の話で、期待していなかったところにダークホースが現れることもある。
ジャンルはミステリーとヒューマンドラマ、テイストはコメディが好き。ベタな恋愛ドラマと、大ヒット作のセオリーを踏襲した二番煎じのドラマは飽きたので最近は見てない。最近は王道なようでいて奇をてらった展開も増えたけど、複雑すぎたり不自然すぎると冷める。
いろいろ書いたけど、人が丁寧に描かれていれば、基準をぜんぶ忘れてハマる。
そんな中で「探偵が早すぎる」は、放送当時ちょっと気になってはいたけれど「絶対見よう」という感じにはなれずそのまま忘れていたドラマだった。
大人向け戦隊ものリアル版コメディ
まず、探偵というからにはミステリーだろうと思っていたが違った。確かにミステリー要素はあるけれど、それがメインではない。ひとことで言うならば、日曜朝にやっている大人向け戦隊ものリアル版コメディ。書いていてちょっとよく分からないけど、雰囲気そんな感じ。
以下、簡単なあらすじ。
父が亡くなったため5兆円を相続することになった一華(広瀬アリス)が、財産を狙う親族によって事故に見せかけた殺人を次々を仕掛けられる。そこで探偵(滝藤賢一)とメイド(水野美紀)が事件を未然に防ぐ。
毎度トリックを見破って先手を打ち、「神のものは神に カエサルのものはカエサルに」という無駄にカッコイイ決め台詞とともに「トリック返し」をして敵が苦しんで終わるという1話完結。トリック自体はさほど練られたものではなく、ツッコミどころがあるのも多いので、ミステリー単体として楽しむものじゃない。
敵はドロンボー一味
ストーリー的の流れは完全に戦隊ものだ。
まず一華を葬ろうとする親族が戦隊ヒーローに出てくる悪役まんま。本作における悪のリーダー「ダイダラ朱鳥」演じる片平なぎさが分かりやすすぎる悪で、刺客として登場する子どもたちの雑魚キャラ具合もいい感じ。分かりやすく言うとヤッターマンの「ドロンボー一味」みたいな感じ(もっといい例えがありそうだけど思いつかなかった)。物語冒頭に「今回の刺客」が悪だくみを相談して殺人を企てるも見破られて倒され、「わたしのかわいい手下を……キィィ、覚えてらっしゃい!」という雰囲気で終わる。
雑魚キャラ①の息子は妙にセクシーな声で「ママー!」というのが振り切っていて、イケメンなのにダサく見えるのが色々通り越して好感持てた。
ウザイけど愛すべき変人ヒーロー×2
ヒーローである探偵とメイドはそろってウザキモいけど愛すべきキャラ。
一華の恋愛要素もあるのかなと思いきや、あるにはあるがさほど重要でない。一応、韓流イケメン風のボーイフレンドはいるけれど、毎回完全に脇役。しかも終盤では一華を殺そうとし、改心した後はさっさと去っていった。恋愛要素って中途半端に入れると冷めてしまうけれど、それすらコメディに利用してしまう潔さがよかった。
ボーイフレンドとのロマンスじゃないなら、もしや探偵にホレちゃったりするの? と思いきやそれもない。ならば、探偵はお父さん的な立場なのかとも思ったけれど、そうでもない。情があるのかないのかよく分からない絶妙なポジションにいて、完全に一歩引いた場所から一華を見守っている。
いままで見た雰囲気のドラマにこじつけると、わたしの好きな古沢良太さん(リーガルハイ、コンフィデンスマンJPなどの脚本家)的なノリだろうか。テンポが速くてギャグ万歳、でも人情味あふれる雰囲気。まさに私のツボ。
軽けりゃいってもんでもない。人情あればいいってもんでもない
コメディが好きだからといってノリが軽けりゃいいってものではない。ガチャガチャ騒いでいるだけの表面的なノリで押し切っているものは嫌いだ。本作も最初はもしやそっちなのかな? と思ったけれど、ちゃんと人間が描かれていた。
でも人間が描かれていたらなんでもいいってもんでもない。一見ウケが良さそうでも、依存を生むような思考は苦手。逆に、ドライすぎるロボット人間が、ばっさばっさ人の気持ちをぶった切って、でも最後はなんかうまくいってる、みたいな極端なのも苦手。
依存的思考は気持ち悪いけれど、人間だもの、何もかもドライってわけじゃない。「極端な主人公が1人いてあとは凡人」というものより、個性的な登場人物たちが絶妙なバランスを保っているのがいい。現実ってそういうものだと思うから。
本作は、探偵とメイドが変人すぎる。2人もおかしな人がいるにも関わらず嫌な感じがしないのは、ちゃんと人間らしさが描かれているからだ。一華を思う気持ちがあり、それに至った動機も描かれている。そんな優しさと同時に突き放すようなドライさも併せ持つ。しかしこの「ドライ」はロボット的なそれではなく、優しさの裏返し。信頼しているからこそできる技なのだ。
わたし史上3本の指に入るラスト
それを象徴するのがラストシーンだ。
最後に探偵はボーイフレンドと一華を再会させ、また平和な学校生活に戻る。それを遠くから探偵とメイドが見守る。というのを予想していたのが見事に裏切られた。
ボーイフレンドは再登場することなく、探偵と一華の別れのシーンが最後となる。一華の「探偵としてまた雇ってあげてもいいよ」というセリフを聞いて、なるほどこの先も見守る設定か、と思ったらそうじゃなかった。本当にここで別れるのだ。しかも、別れを惜しむ一華を軽くあしらい、最後の最後に「らしい」ことをして颯爽と去っていく。「え、ほんとにこれで終わるの?ほんとに?」と思ったらほんとに終わった。最後の探偵の表情がいい。
見終わった瞬間はもっと先まで描いてほしい気もしたけど、しばらく経つとこれがよかったと思えた。
ラストシーンは大事だ。時間と空間で区切られた1つの世界の終わりを印象付ける。本作では世界観とぴったりな上、爽やかな余韻を残すものになった。描かれなかったその後の2人行く先は視聴者の想像にゆだねられ、それは無限にある。
「別れ」はいつでも軽くていい
ここでふと思い出した。
大人になってから人生における別れのシーンが重みを増すようになっていたけれど、そういえば学生の頃はそうじゃなかった。
転校したり卒業したり引っ越したりして、近いようで2度と会わないであろう友達や好きだった子のことも、さほど引きずることはなかった。別れる瞬間までを楽しみ、次に切り替えていた。別れの次には出会いがあるのが当たり前。
それが年を重ねるうちに、次の出会いに不安や面倒臭さを覚えていた。知らないうちに感性が鈍り体が重くなっていたのだろう。しかし自分の気持ち次第で、いつだって軽くなれるのだ。良い出会いばかりではないだろうけれど、新しい世界は待っている。何歳になっても別れは軽やかでいたいものだ、と改めて思った。
オジサン探偵は変人だけれど愛すべき自由な人間だった。きっと現実にもいるに違いない。だからわたしも、歳を重ねたこの先だってそうなれる。
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