メモ 陰謀論と過激派との間に密接な関係を見出す研究がある
最近、陰謀論(consipiracy theory)に対する研究者の関心が急速に高まりつつあり、哲学、文学、歴史学、心理学、社会学、政治学など、さまざまな研究者がこのテーマに関する論文を発表するようになっています。政治学がこのテーマに関心を寄せる理由の一つが、陰謀論を信じる人々が過激派の構成員に多い傾向が挙げられます。
陰謀論は社会的、経済的、政治的な出来事や状況の最終的な原因を2人以上の有力者による秘密の陰謀として説明するために作られた検証不可能な信念の一種です。政府関係者、企業関係者、科学関係者、宗教団体、民族団体など、さまざまな陰謀論がありますが、ナチ党の反ユダヤ主義を基礎とする陰謀論のように政治的に利用されることもあります。
基本的に研究者は陰謀論を信じる人々を過度に悪者のように取り扱うことがないように注意を払うべきであると考えています。例えば社会学者のSparkは、陰謀論が社会を認識するために、理解しがたい社会の現実を理解できる枠組みに単純化していく過程で採用される信念であることを踏まえ、各人の社会に対する強い不満や不信に対処する戦略として機能していると論じました(Spark 2000)。
ただ、陰謀論を信じることで得られる効用に対して研究者の見方は否定的です(Douglas et al. 2017)。陰謀論には、社会的認知の負荷を軽減するだけでなく、自己効力感や自己肯定感を強化する効果があるという説も唱えられていますが、否定的な証拠もあり、論争が続いています。
陰謀論を信じることの有害さを強調する議論では、陰謀論を信じる人々と組織的暴力の関係が指摘されています。BartlettとMiller(2010)はアメリカ、ヨーロッパで暴力的なテロリズムに関与した宗教的、極右的、極左的、環境至上主義的、無政府主義的、カルト的な過激派を50件以上調査し、それらのイデオロギーに陰謀論が埋め込まれていることを発見しました。
例えば、極右的な過激派の構成員は、ユダヤ人が欧米諸国を政府と銀行を通じて密かに支配しているという「シオニスト占領政府( Zionist occupation government)」の陰謀論を信じており、極左的な過激派や無政府主義的な過激派は、「国際金融業」あるいは「グローバル・エリート」という勢力が全体主義的な世界政府の実現に向けて活動していると主張する「新世界秩序(New World Order)」の陰謀論を信じています。
BartlettとMillerは過激派が陰謀論をイデオロギーとして採用することには、過激派の存続に有利となる効果があると考えています。彼らの見解によれば、組織が一丸となって立ち向かうべき敵を創り出すことで、構成員が暴力を行使しやすくすることができます。もちろん、すべての過激派がイデオロギーとして陰謀論を採用しているわけではなく、また陰謀論を信じるすべての人々が暴力的な行動を支持するわけではないことも考慮しておかなければなりませんが、陰謀論は過激派のイデオロギーを強化する手段として一定の有効性があると考えられます。
心理学者のJolleyなどが陰謀論と犯罪心理の関係に着目して行った調査では、陰謀論を信じる度合いが強く、また頻繁に陰謀論に触れている人ほど、犯罪行動の傾向が高まることを報告しています(Jolley et al. 2019)。この調査は、陰謀論と犯罪行動の結びつきに因果性がある可能性を示唆しています。ただし、もともと犯罪行動の傾向が強い人ほど陰謀論を信じやすいという逆の因果の存在を否定できる研究として設計できていないので、さらに検討を重ねる必要はあるでしょう。
参考文献
Bartlett, J., & Miller, C. (2010). The power of unreason: Conspiracy theories, extremism and counter-terrorism. London: Demos.
Jolley, D., Douglas, K. M., Leite, A. C., & Schrader, T. (2019). Belief in conspiracy theories and intentions to engage in everyday crime. British Journal of Social Psychology, 58(3), 534-549.
Douglas, K. M., Sutton, R. M., & Cichocka, A. (2017). The psychology of conspiracy theories. Current directions in psychological science, 26(6), 538-542.
Spark, A. (2000). Conjuring order: The new world order and conspiracy theories of globalization. The Sociological Review, 48(2_suppl), 46-62.