戦闘力とは何か? クラウゼヴィッツの分析で学ぶ軍事学
軍事学では戦いの三要素として力、時間、空間を考えますが、その中で最も基本的な要素は力です。
しかし、力はあまりにも一般的な用語なので、作戦・戦術のレベルで考える場合は軍隊の能力という観点から戦闘力(combat power, fighting power)と呼び、政策・戦略のレベルで力を考える場合は国家の能力という観点から軍事力・防衛力(military power, war potential)と使い分ける方がよいかもしれません。
この記事では主に作戦・戦術の観点から見た戦闘力の性質について一般的に解説してみましょう。
戦闘力の定義、要素、機能について
戦闘力とは戦いで味方の意志を敵に対して強制する力をいい、特に敵を撃破し、その企図を破砕する能力を指して使います。
戦闘力の要素には有形の要素(人員、武器、装備の量と質など)と無形の要素(規律、士気、団結、練度、指揮統率など)がありますが、具体的な種類や構成は時代や地域によって千差万別です。戦闘力の作戦的・戦術的な価値を判断したい場合は特に機動、火力、防護に注目することが重要です。
機動(maneuver)とは、戦いで敵に先んじて有利な態勢を整えるように部隊を移動させることであり、戦闘力の機能の一つです。例えば、先制して主動の地位を獲得すること、敵が予想していない方向から奇襲を行うこと、特定の地点に戦闘力を集中すること、敵の側面や背面に回り込み、優越した態勢を得ることなどが機動の効果です。
火力(firepower)とは、敵を殺傷、破壊して損害を与え、統制のとれた行動を妨害し、機動を促進する機能です。火力の観点から戦闘力を評価しようとする場合、武器の特性に関する知識が必要であり、一般的には対地火力、対水上火力、対空火力などに区分しますが、作戦的・戦術的な価値を判断するためには、さらに歩兵火力、機甲火力、砲兵火力などに区分して分析します。
防護(protection)とは、部隊、施設、補給品などの安全を図るために、敵の火力の効果を減殺、あるいは無効にする機能です。築城、偽装、隠蔽、掩蔽などの手段が代表的ですが、敵の火力が集中することが予想される地域で部隊を分散しておくことや、装備品を小移動させることも防護の機能に寄与します。
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