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メモ 一次大戦で米国社会が直面した鉄道輸送の渋滞と長距離トラック輸送の台頭

1917年にアメリカ政府が第一次世界大戦に参戦すると、それまで見過ごされていた準備不足が次々と明らかになり、関係当局は対応に追われることになりました。アメリカ交通省道路局が編纂した『アメリカ道路史』はアメリカ史における道路行政を取り扱った資料ですが、1917年に参戦した時点で国内の交通の各所で混乱が起きたことが記されています。

当時、アメリカ国内の長距離物流の基盤は鉄道交通にありましたが、アメリカ軍の動員が開始され、陸軍が装備や資材の輸送を増加させ、海軍も軍艦の建造に必要な資材を造船所に輸送するようになったので、鉄道会社に輸送力の余裕がなくなりました。

1917年4月11日、アメリカの鉄道会社の経営陣はワシントンに集まって戦時鉄道評議会を立ち上げ、初めて全国規模の鉄道交通の計画策定に合意しています。この合意により同年9月までにアメリカの鉄道各社の貨物輸送量を前年比で16%まで増加させました(135頁)。

しかし、当時の鉄道インフラでは、それ以上の輸送力を確保することは困難でした。1917年末までには主要都市の貨物駅で貨物の渋滞が目立つようになり、車両や馬車への貨物の積み替えに長時間を要するようになりました(136頁)。これは軍需を満たす上でも重大な問題でしたが、都市部の経済活動でも問題を引き起こすようになりました。農産物、特に消費期限が短い野菜や牛乳が市内で不足し始めたことは危険な兆候でした(139頁)。

連邦政府は1917年12月26日に連邦鉄道管理局を立ち上げ、鉄道の主要幹線の管理に乗り出しましたが、多数の荷主は問題の解決を待つことができませんでした。そのため、荷物の積出、受取を都市郊外の駅に指定し、そこで車両輸送への転換を図るという方法で物流上の渋滞を回避しようとしました(同上、142頁)。

こうして自動車での輸送が増加すると、各地の道路の劣化が加速しました。もともとアメリカは道路に対する公共投資を避けていたので、全国的に舗装は貧弱で重交通に耐えられない土道となっていました。道路行政の強化については戦前から自動車関連業界が求めていましたが、その費用負担が大きいことから政界で慎重な声が根強く、1904年の全米道路台帳によれば総延長393万キロメートルのほとんどが土道で、舗装があるのはわずか5万キロメートルにすぎないという状態でした(同上、133頁)。

1917年の冬は地面がある程度凍結していたので、辛うじて交通量の急増に耐えましたが、1918年の春が到来して降雨量が増えてくると、道路の陥没が各地で生じました(142-3頁)。各地方では戦時の交通量の増加により生じた道路交通の寸断に地方対応するため臨時に予算を組みましたが、一部の議員は国防上の理由から破損した道路に関しては連邦政府に費用負担を求め、これは政治上の問題になりました。

こうした混乱の中でも鉄道交通は渋滞の問題を解決できず、企業は自社で長距離トラック輸送の態勢を拡充するという戦略を選び取りました。1918年のはじめには、大都市間で定期便を定着させており、二度と鉄道に回帰することはありませんでした(146頁)。政府は道路の破損を回復するための調査に乗り出し、破損の原因がトラック走行時の加重が路面の支持力を超えたことで、基礎構造から破壊されたことを科学的に解明し、メーカーとの協議に基づいて車両の荷重に法的な制限を導入していきました(172-3頁)。

1918年に戦争が終結したことで、交通の混乱は次第に改善されていきましたが、アメリカの政財界は道路行政の意義について意識を改めることになりました。戦後、アメリカ陸軍としても交通計画の策定に関わり、参謀本部が国防上の重要道路を指定し、橋梁の強度、道路の幅員、都市中心部への進入の何度、陸海軍基地との連絡状況について細かく検討しました(202-3頁)。

第一次世界大戦が終結したことで西部戦線に工兵として従軍していた道後技術者も復員したことで、アメリカの自動車交通インフラは一段と近代化され、高速道路の建設も始まりました。この戦間期に整備したインフラは、1941年にアメリカが第二次世界大戦に参戦し、再び大規模な産業動員に乗り出した際に重要な交通基盤を提供しました。

見出し画像:Long Island Motor Parkway

参考文献

U.S. Federal Highway Administration. 1977. America’s Highways, 1776-1976 : A History of the Federal-Aid Program. Washington, D.C.: U.S. Government Printing Office.(部分訳、アメリカ連邦交通省道路局『アメリカ道路史』別所正彦、河合 恭平原書房、1981年)

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