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近代日本の発展の礎となった港町ヨコハマのご当地実話怪談『横浜怪談』(黒史郎) 著者コメント+自選1話試し読み
ご当地怪談の真骨頂
横浜の地には多くの霊が眠っている!
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あらすじ・内容
飛び降りを誘発する南区の魔の崖
鶴見区の三輪車に乗った首なし少女
保土ヶ谷区で通夜に届いた謎の骨
通行人を引き込む西区の魔の池
亀が祟った池 中区長者町
日本のあらゆる文化の発展の地となった横浜。その繁栄と成功の陰には多くの衰退と死があり、想像もしないほどの多くの霊が眠っている!
『川崎怪談』に続き、土地の過去から現在につながる怪異を鶴見区在住の作家・黒史郎が丹念に炙り出す。
・供養塔そばのトンネルで遭った恐怖「トンネルの女」(鶴見区)
・漁師が遭遇したのは…「幽霊船」(横浜港沖)
・タトゥーを入れに行った店で見たモノ「白い背中」(中華街)
・屈指の“出る”場所である池にまつわる怪異譚「三つの池の女たち」(神奈川区)
――など、土地にしみ込む因縁の記録と痕跡を辿る恐怖の横浜暗黒ガイド!!
著者コメント
「このところおそろし」という言葉を見つけた。
東海道の古地図に、そう記されている山道がある。
険しくて辛い旅になるぞ、という忠告なのだろう。
私は本書を書くにあたって地図をいろいろ見たが、幾度も「おそろし」と戦慄した。
ネットに散見する出所不明な怪談、都市伝説。近代の事件と、その報道資料。人々の記憶、その思い出語り。土地にしみ込む因縁の記録と痕跡。
一見繋がりなく見えるそれらが、地名を介し、地図上で繋がってしまうことがあった。
地名の意味が忌みとなり、失われた過去が浮き彫りにされ、他の因縁と黒い根で結ばれる。
その瞬間に立ち会うと鳥肌が立った。
もちろん確証を掴んだとは言い切れないものも多いが、怪談にはそれぐらいがちょうどいい。お化けの話なのだから、簡単に掴めてはつまらない。
戦争と震災、度重なる大火や氾濫によって、貴重な記録や史跡がごっそり消えていることもあった。それによる歴史の空白のせいで、繋がりそうで繋がらず悶々とすることも度々。
横浜は、日本のあらゆる文化の発展の切っ掛けとなった、あらゆる〈最初〉の歴史を持つ街である。埋め立て、掘り崩し、幾度の失敗を繰り返して、華やかな興行街が誕生し、異国との国際交流の場となって、日本の発展の港となった。
その繁栄と成功の陰には多くの衰退と死があった。炎が幾度も町を舐めまわし、戦争が焦土を作り、破滅的な震えがせっかく築いたものをすべて壊した。災いが蹂躙した後も人々は、瓦礫と屍の上にたくましく復興を繰り返してきた。
横浜の地には、私たちが想像もしていなかった多くの霊が眠っている。
きっと今もまだ。
『怪談』を著した小泉八雲が、来日して初めて踏んだのは横浜の地だった。
横浜の怪談をお届けする。
試し読み1話
霊の話とも言えず、でもひどく不吉で、人と怪異が入り乱れて跋扈する横浜らしい話――そう思ったので、こちらの話にしたく思いました。(by 黒史郎)
見知らぬ骨箱
保土ヶ谷区宮田町にあった古物商の家で起きた。
昭和十一年六月二日、肋骨周囲結核によりこの家の四歳の二女が亡くなった。
近親者を招いてささやかな通夜をし、三日と四日の夜は引き続き二女の遺骨を安置した二階の部屋に閉じこもって念仏供養をした。
五日の朝、この家の奥さんが店頭の戸棚に見覚えのない紙包みがあることに気づいた。
包み紙を開けてみると、白綸子(白色の絹織物)のかかった三寸角の杉製の骨箱だった。
中には紙袋に入れた骨灰が入っていた。
当然、我が子のものではない。
付近の派出所に届け出ると、署員は葬具店にこれを調べてもらった。
白綸子の汚れ具合から見て、二、三年ほど前のものであろうとのこと。
骨灰の中には一寸ほどの骨が数本入っており、二、三歳の子どものものと判明する。
愛する我が子を失って失意の底に沈む遺族の元に、なぜ他所の子の骨が届くのか。
あまりに気味が悪いので東光寺の納骨堂に納めてもらったという。
報告を受けた保土ヶ谷署は本件を慎重に捜査したのだが、遺骨がどこの誰のものなのかは判明しなかった。
その後も、謎の骨箱に関する情報は一切公表されていないという。
◎著者紹介
黒 史郎 (くろ・しろう)
小説家として活動する傍ら、実話怪談も多く手掛ける。「実話蒐録集」シリーズ、「異界怪談」シリーズ『暗渠』『底無』『暗狩』『生闇』『闇憑』、『黒塗怪談 笑う裂傷女』『黒怪談傑作選 闇の舌』『ボギー 怪異考察士の憶測』『実話怪談 黒異譚』『川崎怪談』ほか。共著に「FKB饗宴」「怪談五色」「百物語」「怪談四十九夜」「瞬殺怪談」各シリーズ、『未成仏百物語』『黄泉つなぎ百物語』『ひどい民話を語る会』など。
黒史郎作品 好評既刊
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神奈川県のご当地怪談 好評既刊
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