「5年後も、僕は生きています ㊲出版決定!」
「5年後も、僕は生きています」第37話です。
新しい原稿は、気持ち良く、すらすらと進んでいました。
前の原稿を見ることは、一度もありませんでした。
PCで文字を打ち込む手が間に合わないほどのスピードでした。
まるで僕がどこかにつながっていて、そこから言葉が降りてきている、そんな感覚です。それは、心地良く、僕にとって至福の時間でした。
実生活の方では、失業保険の期間がついに終わりました。4月から受給し始めて約8ヶ月、ついに新しい仕事が見つかることはありませんでした。
「自分でやりなさい」
僕の魂が道を示してくれていました。。
僕は個人事業主として独立することを決めました。仕事や行く先は全く見えていませんでしたが、不安はありませんでした。
“Being In The Frow(流れのなかにいる)”
これからどんなことが待っているんだろう?
宇宙は僕に、どんなことを用意してくれるんだろう?
2月に入ってすぐに、吉尾さんと会いました。
「編集会議、無事通りました。まあ、僕の意見をある程度通せる会議なので、これは問題ありませんでした」
「ありがとうございます。さすがです」
「いえいえ、大変なのはこれからです。この上の企画会議では編集部だけでなく、営業部や数字を扱う部署などがみんな出てきて、“この本はどのくらい売れるのか?”“採算が合うのか?”“どのくらい利益が見込めるのか?”みたいなことで、散々検討されるのです」
「そうなんですね、さすが大手は違いますね」
「ええ、まあウチはそういう意味では“売れない本は作らない”という主義みたいなものがありまして…」
「それはビジネスですから、しょうがないというか、当たり前のことですね」
「で、今回の刀根さんの本をどういう形で会議に通すか、いろいろ策を練っているところなんです」
「肺ガンステージ4からの生還、というのはそこそこインパクトあると思うのですが…」
「ええ、もちろんインパクトはありますし、大事なところです。しかし、“闘病記”というカテゴリ自体、あまり売れないというか、ベストセラーが出にくいカテゴリなんです」
「そうなんですか?」
「ええ、有名な芸能人やスポーツ選手が書いたガンからの生還記やほかの闘病記なども、あまり売れていないのが、実情なんです」
確かに、そういうところもあるかもしれない…
「そこで、今回の本は、刀根さんの闘病の実録の“体験記”と、刀根さんがその体験で気づいた“法則”みたいなもの、両方を書いたらいいのではないかと思ったのです」
「なるほど…」
「体験だけでも十分にインパクトがあり、読ませることが出来ると思いますが、その体験をした人でなければ分からないこと、刀根さんの体験した“宇宙の法則”みたいなものを書いていただければ、単なる体験記におさまらないものになるのではないかと思ったのです」
「さすがですね…気づきませんでした」
「あまりスピリチュアルに偏りすぎず、かといって刀根さんが体験されたヒーリングや治療なども不思議なものがたくさんありますので、そのあたりをまとめていただければいいのではないかと思います」
「そうですね、僕はあの体験は“究極の引き寄せ”だと思っていますので、そのあたりも書いたら面白いかもしれません」
「昔弊社でも“引き寄せ”で売れたシリーズがありました。いまはスピリチュアル系の本はほとんど扱っていませんが、これはその実例としても面白いんじゃないかと思うんです」
「はい、わかりました。了解です」 僕の中に、モクモクと創作意欲が湧いてきた。
同じ方向を向いている信頼出来る仲間と一緒に仕事をすることって、なんて幸せなんだろう。
エネルギーのロス、ストレスがまったくといっていいほど、ない。
僕は吉尾さんと別れてから、さっそく原稿の続きを書き始めた。
3月1日、最寄りの税務署に赴き、「開業届」を出しました。
個人事業主としてこれから経済活動をするために必要な手続きです。
どんな屋号にしよう?
「開業届」に書く、自分の「屋号」です。
「屋号」とは会社の名前みたいなもので、これからは自分の名前ではなく「屋号」が僕の仕事を表す総称になります。
古代サンスクリット語に「LEELA(リーラ)」という言葉があります。
意味は「神々の戯(たわむ)れ」という意味です。
『僕たちは、実はみんな神様なんだけれど、この世界にやってくるときに“自分が神様”だということを“あえて”忘れて、やってくる。
なぜ忘れるかっていうと、自分が“神様”だと知っていたら(覚えていたら)、回答や攻略本を見ながらゲームをやることと同じになってしまう。
それじゃゲームは面白くない。
何も知らない、何も覚えていない、何もわからない、まったく白紙、全くのステイタス“ゼロ”状態から始めるからこそ、ゲームは楽しめる』
「LEELA」とは、
『この世界は“神様が”たわむれ(遊ぶ)”のために創った世界なんだよ、僕たちはみんな、遊びに来ている神様なんだよ』
そういう意味なのです。
LEELA、いいな~
よし、LEELAで行こう!
僕は自分の屋号を「OFFICE LEELA」としました。
名刺の裏には「「人生は、遊びだ」を入れました。
これは深刻になりがちな僕の“自我/エゴ”への自戒を込めた言葉です。
この言葉を見るたびに、肩の力を抜いて、この世界を遊んでいこう、そう思い出せるように。
約ひと月が経ち、3月になりました。
原稿は順調に進み、第1部の体験編は早くもほとんど書き上がっていました。僕はその体験編を読み直しながらも、第2部の法則編の原案を練っていました。
吉尾さんから連絡が入りました。
「会議に通りました! これで出版できます!」
やった!
さっそく、吉尾さんと会いました。
「おめでとうございます。会議に通りましたので、これで晴れて出版することが出来るようになりました」
吉尾さんは嬉しそうに言った。
「こちらこそ、ありがとうございます。ほんとうにありがとうございます。しかし、さすがですね。どうやったのですか?」
「企画を説明したところ、いろいろと質問なども受けましたが、最後は私の力業で強引に通しました」
「さすがです! 頼りになります!」
「いえ、刀根さんの方こそ、すごく筆が速いですね。もうこんなに書いたのですか?」
「ええ、もう、止まらなくて」
そう、僕はまるで何かに取り憑かれたようにトイレに行くのも、食事をするのも面倒くさくなる感じるほど、毎日6時間~8時間以上、ぶっ続けで書き続けていました。
「すごいですね、そんなに集中して書けるものなんですね」
吉尾さんが感心したように言いました。
「僕はね、書いていると幸せなんです。以前も小説を書いていたとき、ほんとうに幸せでした」
「僕もたくさん著者さんを知っていますが、そういう人は珍しいと思います」
「そうなんですか? いや、他の人のことはよく分かりませんが、僕は書いていると、自分がどこかにつながったような気がするんです」
「どこか…ですか?」
「ええ、そのつながったところから、言葉がどんどん降りてくる、みたいな感じです。僕はそれを文字という形に打ち込んでいるだけ、みたいな感覚ですね」
「そうなんですか、不思議な感覚ですね」
「ええ、なんか、書かされている、そんな気がします」
「きっといいものが出来ると思います。この本を必要としている人たちがきっといます。そういう人たちへ、素晴らしい作品を届けましょう。それが私たちの仕事です」
「はい、そうですね。僕はほんとうに吉尾さんと出会って良かったです。ほんとうにラッキーでした。ほんとうに感謝です」
「いえ、私の方こそ、感謝しています。これはおそらく私が出版という業界に入ってから、初めての体験なんです。私もほんとうにワクワクしているんです。刀根さんは私を見つけました。そして、私も刀根さんを見つけたんです」
「はい、お互いに見つけたんですね」
「刀根さん、もしよろしかったら、刀根さんが以前書かれた小説なども拝見させていただいてよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろんです。ぜひとも読んでください」
こうして僕が以前に書いた小説も、吉尾さんに読んでもらうことになりました。
僕が以前書いたものは出来はいまひとつでしたが、ガンからの生還を体験した“いま”の僕がもういちどリライトをすれば、素晴らしいものに変身するような気もしていました。
そう、その中のひとつが「さとりをひらいた犬」になるのですが、この話はまた後ほど。
第1話から読みたい方は、こちらから読むことが出来ます。
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