★我楽多だらけの製哲書(15)★~ジャパン・フェスティバル2020とジョセフ・ナイ~
昨日、散髪に行った。そのとき順番を待っている間に流れてきた曲によってラオスの懐かしい記憶が呼び起こされた。流れてきた曲は秦基博の「ひまわりの約束」であった。積極的に音楽を聴くことがない私は、この曲をラオスのジャパン・フェスティバル2020というイベントで初めて聴いた。
ジャパン・フェスティバル2020というイベントは、ビエンチャンセンターの隣にあるワールドトレードセンター前のスペースに、発表ステージやブースが設けられ、様々な日本文化を紹介するものであった。規模は別として、雰囲気はシンガポールにいたときの日本人会夏祭りと同じようなものであった。
当時勤務していたビエンチャン日本語補習授業校の子どもたちは、週末にソーラン節を披露するということで、土曜日の授業が終わった後、発表時間に間に合うように私も駆けつけた。小学生になる前の子から中学3年生まで、幅広い年齢層の子どもたちが一つのグループとしてソーラン節を一生懸命に踊っていた。
彼らの発表の後も、様々なパフォーマンスがステージ上では行われていたが、パフォーマンスは日本の人だけではなく、ラオスの人もおり、「ラオスにおける日本という国や文化のイメージ」が分かりやすくそこでは表現されていた。例えば、「サムライの格好をして刀」を持ち、戦いながら踊るパフォーマンスは典型的だった。それから、坂本九の「上を向いて歩こう」なども日本をイメージする定番ソングで、それを歌っている人もいた。そして秦基博の「ひまわりの約束」という歌を熱唱している人もいた。
会場の各ブースでも「様々な日本」が表現されていた。「ガンプラ」「寿司」「たこやき」「しょうゆ」「お茶」「お酒」など日本に関連した商品を提供するブースもあったが、「熊本の紹介」「別府の紹介」「生け花体験」「工芸品製作の体験」など日本文化や情報を伝えるブースもあった。さらには、ラオスと日本とつなぐ役割を担う「日本大使館」や「JICA」のブースもあった。
これらバラエティーに富んだブースの中で、我が勤務校も有志を募ってブースを出すことになり、イベント2日目に射的・ベーゴマ・折り鶴・ぶんぶんゴマで遊ぶコーナーとともにビエンチャン日本語補習授業校を紹介することになった。接客の苦手な私は、開始前のブース設営のお手伝いまでで留めさせていただいたが、JICAが作ったTシャツをいただくことができた。おかげでシンガポールの日本人会夏祭りと同じような感覚がさらに増した。
このような日本文化に関わるイベントでは、シンガポールもそうだったが、ラオスもやはりステレオタイプのイメージが前面に出てくるようである。それが「KARATE・CAFE」や「KAWAII・BENTO」のようなブース、そして会場の至る所で見かける「コスプレ」なのだ。シンガポールの若者もラオスの若者もこうして日本のアニメキャラクターに扮するのが大好きなようである。
イベント全体を見る限り、ラオスは日本に対して肯定的な感覚をもってくれているように思えるし、こういう繋がりを増やし深めていけば、国家同士の関係は益々良くなっていくと通常は考えられそうである。
このような「文化」をはじめ、「政治的な価値観」や「外交政策」など、軍事力や経済力のような強制的な手段によらずに、国際社会からの信頼や発言力を得るようなものは「ソフト・パワー」と呼ばれ、これはアメリカの国際政治学者で国防次官補・国家安全保障会議(NSC)議長も務めたことがあるジョセフ・サミュエル・ナイ・ジュニアが提唱した概念である。彼は、これからのグローバルな社会においてソフト・パワーが重要な役割を果たすと考えた。
ただ、日本がいかにアニメを筆頭にその文化的魅力によって他国から肯定的な評価を得て、国家関係が良好なように見えるとしても、ひとたび歴史的な問題がクローズアップされれば、そちらに引きずられて、肯定的な評価や良好な関係は脆くも崩れてしまう。
ナイは、文化的なものを「ソフト・パワー」、軍事的・経済的なものを「ハード・パワー」と呼んだが、国家関係をある方向へ導く上で、二つのパワーが同じ影響力を持っていて二者択一の手段であると考えることは難しいだろう。
アニメなどの文化的な繋がりは、国家関係が安定しているときならば、その関係をより良好なものにしてくれる力を発揮していれる。しかし文化的な繋がり単体で、不安定になった国家関係を引き戻すようなものにはならないだろう。それは「調味料」のようなものであり、食材の味をより良いものにはしてくれるが、決して調味料だけでは食事にはなりえないのと同じである。
実際、ナイ自身、ソフト・パワーのみで国際問題を解決できると考えてはおらず、ハード・パワーと組み合わせて相互補完的に活用することが必要であると説いているわけだが、それはソフト・パワーがハード・パワーに代わる手段ではないことを意味している。そしてハード・パワーに取って代わることができないということは、あくまでもソフト・パワーは「従」なのである。
ただ、ジャパン・フェスティバルが盛り上がっていた様子を見る限り、ナイが提唱したソフト・パワーによって日本とラオスの関係は良い状態に味付けされているのは間違いないだろう。だが一見、日本料理に思えるようなものであっても、実際にはラオス風に味付けされていて、それが良い状態かどうかは完全に好みの問題であって、万人に受け入れられるものでは「ナイ」。
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(以下で、ジャパン・フェスティバル2020の画像や動画を紹介)
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