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心理的安全性とは?誤解されがちな本質

心理的安全性は、ハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授によって提唱され、Google社の「プロジェクト・アリストテレス」によってその有効性が実証されました。成功するチームに共通する要素として、心理的安全性は注目を集めています。
今回は、エドモンドソン教授の著書『恐れのない組織』(英題:The Fearless Organization)を基に、心理的安全性の定義と、それに関する誤解についてを自分なりの意見とともにまとめてみました。


1. 心理的安全性の定義

心理的安全性とは、「対人関係において不安がない状態」を指し、立場や身分に関係なく率直に意見を述べ、チームや組織のためにリスクを伴う発言ができる環境のことです。

心理的安全性が確保された組織は「ファイアレスな組織(不安を恐れない組織)」と呼ばれ、対人関係の不安を最小限に抑えながら、チームのパフォーマンスを最大限に引き出せるとされています。

ビジネスの世界ではこの考え方は比較的受け入れられていますが、縦割りの指示体系が根強いスポーツ界や部活動の現場では、「甘い」と捉えられることも少なくありません。しかし、この見解は心理的安全性の本質を誤解していると言えます。

私自身も、「指導とはこうあるべきだ」という固定観念にとらわれていました。しかし、選手の主体性を尊重し、「スポーツを楽しむ」という本質に立ち返る中で、研修や専門家との対話を通じて、プレイヤー・センタードの視点を持つことの重要性を痛感し、結果としてファイアレスな組織づくりを目指すようになりました。(まだまだですが…)

チームには必ず目標や目的があり、その達成のために組織されています。日々の活動の中で目標を認識し、日々の行動や感情が目標達成に向けた適切な手段であるかを確認することが、指導者の役割の一つだと考えています。

 どんなチームも大なり小なり対立は避けられず、全員が完全に同じ方向を向くことはありません。それは、人間が多様だからこそ当然のことです。同じ方向を向くことが簡単にできたら、人類が何度も繰り返す戦争や紛争はなくなっているはずです。
その前提に立ち。だからこそ、チームのメンバーに寛容さを持ち、率直に話し合える環境を作ることが、何よりも重要であり、これがスポーツの本質と考えています。

そもそもスポーツは、人間が幸せになるためにあるわけですから。

こうした環境の中で、私自身が最も大きな学びを得たのは選手たちからでした。選手(生徒)は時に大人が想像する以上に成熟した考えを持ち、ときには私自身よりも鋭く的確な意見を述べることがあります。選手たちの率直な姿勢や鋭い視点に触れるたびに、自らの視野の狭さを痛感し、同時に、選手たちの寛容さ、それぞれの人間性の成長こそが、チームの成長を支えているのだと実感するようになりました。


2. 心理的安全性に関する誤解

①それぞれが感じよく振る舞うことではない

心理的安全性とは「率直さ」を意味し、単にそれぞれが感じよく振る舞うこととは異なります。建設的に反対意見を述べたり、自由に意見を交換できる環境がなければ、学習やイノベーションは生まれません。

ポイント:

  • どんなチームでも対立は発生する。

  • 重要なのは、どこに納得がいかないのかを率直に話せる環境を作ること。

② 心理的安全性は性格の問題ではない

心理的安全性は、個々の性格(内向的・外向的)に依存しません。性格にかかわらず、誰もがアイデアを提供できる環境が重要です。今でいう「陽キャ」がずっと喋っている環境はダメということですね。

③ 信頼の別名ではない

心理的安全性と信頼には多くの共通点がありますが、同じものではありません。

  • 心理的安全性はグループ内で共有されるもの。

  • 信頼は二者間、または組織間の相互作用の中で形成されるもの。

④ 心理的安全性は目標を下げるものではない

心理的安全性は、単に「気楽に過ごせる環境・集団」を指すのではありません。むしろ、野心的な目標を掲げ、それに向かって協働していくために不可欠な要素です。

⑤ 心理的安全性「だけ」では十分ではない

心理的安全性は、組織の学習と成長を促進する重要な要素の一つですが、それ自体がすべての問題を解決するわけではないし、成長のすべてではない。

リーダーの役割:

  • 心理的安全性を確保しながら、学習と成長を促進する。

  • 回避可能な失敗を避けるために、フィードバックを活用する。

  • 高い基準を設定し、意欲を促し、適切なサポートを提供する。


3. まとめ

心理的安全性は、率直なコミュニケーション、好奇心、協力を促進し、結果として高い成果を生み出す環境の基盤となります。単なる「居心地の良い空間」ではなく、個々が挑戦し、学習し、成長できる組織文化の礎となるもの。


「可能であるはずのことが、不可能になるのを減らせる」

これは、私が心理的安全性について最も納得した表現です。心理的安全性はすべてを解決する万能薬ではありませんが、なければ前に進むことができない重要な要素です。特に、野心的な目標を掲げるチームでは、意見のぶつかり合いが避けられません。その中で心理的安全性を担保しながら、チームの歩みを進めることこそが、指導者の手腕が問われる場面なのだと感じています。

次回は、心理的安全性が実際にどのようにチームや集団に良い影響を与えるのかを、具体的な事例とともに考察していきたいと思います。


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