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「思い出せない脳」澤田誠著

「名前が出てこない脳のメカニズム」

私は記憶力が良いほうではない。以前に人事部長をやっていたが、社員の顔は思い浮かぶのに名前が出てこない。生まれ持った資質だとあきらめていたが、本書で記憶とは何か、どのように記憶し、引き出すのかを理解してすこし安心した。

そもそも記憶は人名を覚えるためや学力テストのためにあるのではない。進化の過程で記憶する力を手に入れたのはそれが生存のために役立ったからである。したがって記憶のメカニズムはその目的に沿って設計されている。

動物は生き残りのために「情動」(喜怒哀楽等の感情の一部)を進化させたが、記憶はこの情動と密接に連携している。そのため情動をともなう記憶「エピソード記憶」は思い出しやすい記憶で、人名など現代社会で知識と呼ばれる記憶「意味記憶」は思い出しにくい記憶なのである。意味記憶は生存にとって必須ではないからだ。

本書ではさらに脳の構造や各部の役割、思い出せない理由、さらには記憶をよくする方法までわかりやすく解説してくれる。自分を知るうえで役に立つ一冊である。

「思い出せない脳」澤田誠 講談社現代新書

(この記事は以前に私が業界誌に投稿した推薦図書文です)


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