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【2021年のオープンイノベーション】Venture Clientという方法論

オープンイノベーション管理SaaS、InnoScouterの川島です。

今月もCVCが3件程新設されていましたね!

という感じで、コロナもありましたが、引き続きCVCの設立数は増加傾向にあります。現在CVCは約200社程ありますが、北米と比較すると投資額ベースで約10倍に増加する可能性があります。

他方で、CVCブームと比べて、コーポレートアクセラレータープログラムなどのその他のツールは少し落ち着いてきている印象です。

(Mind The Bridge社による"Macro-Trends for 2020 in Open Innovation: Outlook 2020”より引用)

イノベーションコンサルの調査によると、アクセラレーションのみ微減。他方で海外拠点設立(シリコンバレー・イスラエル)、スタートアップスタジオ、買収への関心度合いは増加。最もアクティブに取り組まれている活動は、"Scouting=スカウティング"と"Procurement=購買"の2つになります。

とはいえ、Corporate Innovation活動全体においてアクセラレーターは一定のポジションを有しており、こちらの調査だと3位です。(特記に値する点は、Commercial Partnershipが1位、CVCとVenture Builderがほとんど同じ規模感、Startup  Sourcing Platformもそこそこという点でしょうか。)

(Innovation Centre Denmarkによる "INNOVATION DEPARTMENTS ARE WHERE STARTUPS GO TO DIE"より引用)

こちらの記事は、100名以上のCorporate Innovation担当者が参加したカンファレンスでの議論をまとめたものになるのですが、以下の点が言及されています。

・とりあえずなんでも投資するな。
・イノベーション ラボではスタートアップはうまくいかない。事業部と連携せよ。
・グローバルにスタートアップソーシング しよう。ツール使おう。
・コーポレートとスタートアップの双方の理解を深めよう。
・イノベーション 劇場に注意。
Venture StudioやVenture Clientという新モデルへ移行しよう(よりコストエフェクティブ)

以前Venture Studio(=Builder)に関してはまとめたので、今回はVenture Clientという新モデルについて解説したいと思います。

1. Venture Clientとは

"事業会社が、戦略的な利益を獲得するために、スタートアップの製品・サービスをユーザーとして利用する"

というのが定義になります。(Wikipediaでもまとめられてます)

要するに、スタートアップのサービスを活用して自社の課題を解決する活動なのですが、ポイントなのは、まだROIなどの成果の確からしさが曖昧な中で、仮説を信じて使ってみるというリスクテイクの姿勢です。課題解決のためにMVPをEnterpriseが使ってみる、という状況ですね。

事業会社のメリットとしては、初期フェーズでスタートアップのプロダクトにユーザーとして関わることから、抱えている課題に関するインプットが他社と比べてより多くできる、基本的にはサービスの購買行動なので、協業や投資に比べて低コストになる、という点です。

ちなみにこの手のバズワードには大体大手コンサルティングファームが背後にいたりするのですが、Venture Clientはキャップジェミニさんが一押しのようです。

Corporate Startup Star Awardsというコーポレートイノベーションの祭典では、Accelerator、M&A、Intrapreneurshipなどと並び、既にVenture Clientが一つの表彰のカテゴリーとして定義されています。

また、Googleトレンドで類似キーワードと比較してみると、

Corporate Venture Capital:38
Venture Builder:8
Venture Client:7
Corporate Accelerator:4

という結果が出ますので、トレンドのシフトを感じます。

2. Venture Clientの歴史

Venture Clientは主に北欧やドイツやラテンアメリカで活用されているようです。

元々BMW Startup Garageというプログラムが2015年に定義したことから始まり、BoschやWayra(Telefonica)など欧州系の企業に普及したという背景があります。

そもそも何故Venture Clientなのか?ぶっちゃけスタートアップの製品購買するだけなのでわざわざカテゴリーとして整理しなくてもよいのでは?という気もしますが、これには歴史的な背景があるようです。

3. Corporate Accelerator Programからのシフト

欧米では、Corporate Acceleratorは元々出資ありきの枠組みでした。2010年代前半から取り組んでいる企業は、年々投資先が積み上がっていき、Wayra(Telefonicaのアクセラレーター)など900社も投資先がいる状態です。

他方で、アクセラレータープログラムの成功率は高くないと言われています。2年以内に60%のプログラムが失敗し、ROIを出し辛い。

このような流れの中で、年々ROIが厳しく求められるようになっていき、より費用対効果が出しやすい領域へシフトするという流れが世界的に起きています。(新規事業から課題解決へ)

また、基本的に投資とセットだった欧米では、コーポレートアクセラレーターのみならず、この協業って本当に投資必須なんだっけ?という見直しがされ始めています。

(他方で日本ではコーポレートアクセラレータープログラムでも投資は少なく、ある意味既にVenture Client的活動になってるとも言えるでしょう。しかし、投資・協業・サービス 導入の線引きは曖昧で、とりあえず投資してしまうという事例はしばしば見かけます。)

投資行為を必ずしも必要としないので持続性を担保しやすい、成功しやすく事業部門の理解も得やすい、スタートアップ側も協業という時間軸が長くエネルギーが必要なアプローチではなくゴールがトラクションであるため着手しやすいという三方良し的発想なので、わざわざCVCやM&Aのアンチカテゴリーとして定義されたようですね。

Venture Clientで達成できるのは、

・スタートアップのMVPを活用して競合に先んじて課題解決ができる。
・事業部門の具体的な課題を解決するためP/Lインパクトが出しやすい。
・各プロジェクトが低コストなため、並行して複数プロジェクトを実施できる。
・オープンイノベーション部門がソーシング してきた案件で、"協業"にあたらないものも対象になるので、ディールフローの全社的な有効活用ができる。
・スタートアップにとってもメリットしかない(=MVPを活用してくれるEnterpriseを見つけるのは至難)

であって、知財への優先的アクセス、共同開発、プラットフォームにおけるAPI連携、協業によるスタートアップ的ビジネスモデルの学習などを実現する手段にはなり得ません。むしろこちらは従来通りCVCやM&Aが中心になるでしょう。(単にサービスを利用する関係性であるにもかかわらず出資を検討するというのはおすすめしません。)

4. 事例

Venture Clientを売りにしている企業のLPを見ると、ソリューションを買いますというのが強調されていることが多いです。購買行為としてのオープンイノベーション ですね。

Bosch

BMW

また、Venture Clientという領域では以下の2社のファームがオピニオンリーダーのようです。

北欧:

ドイツ:

(元BMW Startup Garageの方が立ち上げたファーム)

5. Venture Clientを実行するには?

オープンイノベーション活動をある程度やられている企業であれば、今まで獲得した資源を棚卸しするだけでかなりいけるのでは、という気がしています。恐らく、多くの企業では、事業シナジーがある企業との業務提携or資本業務提携という目線で、出資先のVCからロングリストを入手したり、アクセラレータープログラムを実施したり、スカウティングサービスを活用されたりしてきていると思います。そこで溜まったディールフロー(案件リスト)を、今までと違った目線で眺めるだけで、社内課題解決につながるような事業が見つかると思います。

この際に重要なのは、オープンイノベーション部門/CVCだけでそれを行うのではなく、事業部門も閲覧できる環境を用意することです。というのも、これらの部署がB/S的(企業価値/事業価値の向上のための新規事業やアライアンス構築)であるのに対して、事業部門のP/L的目線がVenture Clientにおいては有効だからです。

実際、本当に困っている課題であれば事業部門も独自にオープンイノベーション・ソーシング 活動を行なっているケースがしばしばあります。ここに対して、既に持っている情報を共有していくのは双方にとってのメリットが大きいですね。

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