流水歯ブラシ(ショートショート)
近頃、巷で話題になっている歯ブラシを購入し、使ってみることにした。
この歯ブラシの軸部分は半透明になっていて、その中には水のような揺らぎが溶け込んでいる。それを光に透かすと、とても綺麗なのだ。
そして何を隠そう、この歯ブラシの名前に”流水”と付くのも、それに由来する。
これを使っている間は、綺麗な水が、ずっと供給され続けるのだ。
今回僕は、夏仕様の歯ブラシを買った。
流水歯ブラシは、季節限定発泡酒のごとく、四季に合わせて”期間限定歯ブラシ”が販売されるのだ。
夏の流水歯ブラシは、時折風鈴の音がしたり、花火の音が聞こえてくるのだ。せめて歯を磨くときくらいはリラックスしながら、という思いがあり、風鈴バージョンの歯ブラシを買った。
効果はてきめん。ただの作業として行ってきた歯磨きが、あっという間にリラックス作用を持つようになった。
けれど、困ったことがひとつあった。
はじめは歯磨きの合間に、リラックス効果のために聞いていたはずの風鈴の音が、今度は風鈴の音を聞いたら歯磨きをしてしまうようになった。
まるでパブロフの犬のようだと思いながら、仕方なく歯を磨いている。