海の標本箱(ショートショート)
普段から気が向いたら、海へ出かけていた。
そういう時は大抵ビーチコーミングをしていた。
貝殻、ビーチグラスに流木のかけら。多孔質の石ころや綺麗な花崗岩。
時々何かの動物の頭蓋骨を見つけることもあった。
そして、集めたものを標本箱にコレクションしていくうちに、海を標本にすることができるようになった。
そのコツは、浜辺で拾ったものを使って、標本にしたい海を固定することだ。
例えば貝殻をひっくり返して、その中に海を注ぐ。もしくは、流れ着いていた木の枝で、採取した海の端っこを固定する。やり方は昆虫標本のそれと少し似ているかもしれない。
お気に入りは早朝の青色の空気に染まった砂浜を、クッションに使った海だ。見る角度によって、波の色も変化する。アイオライトの様な静謐な青色がちらりとのぞいて、とても綺麗なのだ。
そんなふうに標本にした海は、ずっと波打っている。箱の中に小さな海があるわけだ。
季節や時間帯によって色も波の高さも様々で、眺めているだけであっという間に時間が過ぎてしまう。
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