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栞紐(ショートストーリー)

 物語を中断して、栞紐をページの間に挟む。
 一息ついて、空になったマグカップに新しい飲み物を入れに行く。
 コーヒーばかりではカフェインを摂り過ぎてしまうので、別のものを飲むことにする。
 窓の外から射す、雪の青色に染まった空気は、部屋のインテリアのオレンジ色と混ざり合って、より冬の気配を増す。
 暖房の温度によって引き出された眠気を噛みころしながら、キッチンに向かう。ケトルのスイッチを入れ、棚の中にあるインスタントの様々なスティックを品定めする。
 生姜湯のスティックを一本出し、マグカップにざっと開ける。
 そうこうしているうちにお湯が沸いて、それを注ぐ。
 ふわりと湯気が立って、同時に生姜の香りが広がる。
 クリップで閉じていた個包装チョコレートの大袋を開いて、中から二、三粒取り出して再び閉め直す。
 マグカップとチョコレートを持って、本の元に戻る。
 サイドテーブルにマグカップとチョコレートを置いて、本の栞紐を解く。
 触れたページの擦れる音が心地いい。膝の上にブランケットをかける。北欧をモチーフにした、赤や白、茶色のデザイン。
 少し冷たくなった足があたたかくなる。
 インターネットで検索したクリスマスのインストルメンタルを聴きながら読書を再開する。
 サイドテーブルとは別の、作業用のテーブルの上には、メモ用紙とペンが転がっている。何かを思いついた時に記入するために置いてある。
 文章をなぞっていく速度が今日はちょうどいい気がする。スルスルと視線が流れていく。引っ掛かりがなく進んでいく読書は心地いい。
 綺麗な文字の羅列を読み進めていくうちに、その中の単語のいくつかが際立って浮き上がってきて、僕はそれを拾い上げて別の物語を作るきっかけを探す。
 メモ用紙に書き足した単語を飼い慣らすように、それらを広げていく。
 本のページの隙間からトナカイが顔を出し、こちらを見つめる。続けてピョコリと飛び出し、部屋の外へ駆け出していった。
 窓の外を眺めて、その姿を追いかけていくうちに、言葉が集まって形をなしていく。それを一つの物語に仕上げていく。
 ふたたび栞紐を下ろして、本を閉じる。今日はこんな物語なんだ。
 心の中で呟きながら、キーボードをカタカタと打ち鳴らし、物語を作り上げていく。
 遠くの方から、鈴の音が聞こえる。

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