約物の使い方──読点「、」
読点(とうてん)「、」の使い方は意外に正しく認識されていないようです。よく「読点の打ち方に絶対的な規則はない」だとか、「音読で息継ぎをする箇所に打つ」だとかいう言説がまことしやかに広まっていますが、決してそんなことはありません。他の約物と同様、読点にも文章の論理を明確にする役割があることを押さえておきましょう。
簡単にいうと、読点の役割は関係の深い語句同士をまとめ、関係の浅い語句を切り離すことにあります。
主述部分を明確にする
読点の使い方を理解するには、文の構造を把握することが不可欠です。ここで、受験勉強でイヤというほどやらされた英文解釈の手法が役に立ちます。よく知られている以下の用法を例に説明しましょう。
ここで、はきもの(履き物)を脱いでください。
ここでは、きもの(着物)を脱いでください。
上の2つの例において、いずれも場所を表す副詞句(「ここで」、「ここでは」)の直後に読点があることに気づかれたでしょうか。「文」とは主語と述語からなる単位だと習ったはずです。一方、副詞句は文の成立には必須ではなく、あくまで文の内容を補足説明するものです。つまり、文の核となる主述部分を他の付随的な部分(副詞的要素)から区別するために、読点が使われているのです。
以下、例文中の副詞的要素を「<>」で示します。
接続詞、逆接の助詞の後
<しかし>、その意見には素直に同意できない。
<空はきれいに晴れたが>、気温は低い。
原因、理由、条件などを表す節の後
<人間が奥地まで開発したので>、野生生物が激減してしまった。
<その花に近づくと>、甘い香りがただよってきた。
時を表す語句の後
<8月15日>、長い戦争が終わった。
<今朝>、彼からの電話で起こされた。
題目を表す助詞「は」の後
この場合の「……は」は主語ではありませんので、主述関係から切り離すために読点を打ちます。
<象は>、鼻が長い。
主部を明確にする
上の例はいずれも主述関係の外部にある要素を区別するための用法でしたが、主述関係の内部で読点が用いられることもあります。
特に、文全体の主語(主部)が修飾語によって長くなる場合です。主部が長くなると、述語との区切りがわかりづらくなるため、文構造の把握に支障を来してしまいます。それを防ぐために、主部の直後に読点が打たれるわけです。
以下、例文中の主部を「[]」で示します。
[昨夜から降り始めた雨が]、昼過ぎにやんだ。
[口はうまいが行動を伴わない人は]、尊敬されない。
語、句、節、文を並列させる
文中の同じ要素を並べて列挙するときにも読点を使います。修飾被修飾の関係や文構造をきちんと把握して読点を打たないと文意が変わってしまうので、特に注意が必要となる用法です。
名詞的要素の並列
人は思想、信条、信仰によって差別されてはならない。
「思想」、「信条」、「信仰」の3つの名詞が「によって」に包含されています。
形容詞的要素の並列
名詞を修飾する要素を並列する場合です。
それは、江戸時代の、神保町で見つけた、貴重な地図です。
「江戸時代の」、「神保町で見つけた」がそれぞれ「貴重な地図」という名詞を修飾しています。「江戸時代の」は、その後に読点がないと、「貴重な地図」ではなく「神保町」にかかってしまい、「江戸時代の神保町」と取られかねません。
副詞的要素の並列
上の2つ以外の要素を並列する場合です。
文字は、楷書で、きちんと、読みやすいように書こう。
「楷書で」、「きちんと」、「読みやすいように」がそれぞれ「書こう」という述語動詞を修飾しています。
文の並列
その地方では、よい水がわき、うまい米がとれ、酒造業が栄えた。
その他の用法
引用部分の直後
鉤括弧を用いずに引用する場合の用法です。
こんな経験は初めてだ、と彼は驚いた。
言い換え
下町の風物詩、入谷の朝顔市に人が殺到した。
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参考文献
小笠原信之『伝わる! 文章力が身につく本』、高橋書店、2011年、24―27頁。
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