#誰かの役に立てたこと

先生のおかげです

私の仕事は、こんな言葉をかけてもらえる仕事です。
時に子どもから。時に親から。

私の仕事は小学校の教師。
「子どもの役に立つ仕事」ともいえるかもしれません。

もちろん、一生懸命やっても何にも言われないこともあります。
「おまえのせいで」と言われたこともあります。

それが普通です。「先生のおかげです」なんて、ご褒美みたいなもの。
１年間一生懸命子どもと向き合って、「たまに」かけてもらえる言葉です。

だけど、そんな言葉が教師の「やりがい」の一つではないかと思います。「誰かの役にたっている」というのは、嬉しいものです。

僕は小学校の教師を１０年以上続けてきました。
毎年いろいろな学年の学級担任を持たせてもらい、多くの子どもたちや保護者の方に出会いました。大変なこともたくさんありますが、「誰かの役に立てた」を感じることも何度かありました。

その中から一つだけ思い出を書きたいと思います（特定できないように、内容を少しぼかします）

思い出

ある年担任したクラスに、Aさんという男の子がいました。
あんまり勉強が得意な子ではありません。特に、算数の時間になったら、教科書もノートも開かず、おしゃべりばかりしています。「Aさんやろうよ」と私が声をかけても「いやだ」と言ってやろうとしません。

しかたなく私は、彼の様子を見てみることにしました。
どうやら、自分が苦手なことを周りに悟られたくないということが分かってきました。そこで私は次のようにしてみることにしました。

今日のめあては「教科書◯ページの問題がわかるようになる」です。
みんなで力を合わせて、全員がこのめあてを達成できるようにしましょう。

はじめ子どもたちは、黙々と自分の課題に取り組んでいますが、だんだん周りの子たちと関わるようになってきます。「ねえ、終わった？」「分からないところない？」「これどうするの？」だんだん、このような声が聞こえてきて、教室内で動き出す子がでてきます。

子どもたちが自由にウロウロして、話をしているので一見何をしているか分からない状態ですが、どの子も勉強しています。そしてAさんも、何人かの子に囲まれて勉強しています。「この問題はまず、こう考えるんだよ」「何が分からないの？」

真剣な顔つきになったり、照れた顔つきになったり、しながら勉強しています。そして、他の子よりも時間はかかりましたが、私が最初に伝えた「教科書◯ページの問題がわかるようになる」を達成できました。

Aさんはニコニコしていました。いつも「いやだ」と言っていた時とは大違いです。それから私は、子ども同士が「学び合う」授業を時々行うようにしました。

ある日、Aさんは毎日書いている一言日記にこんなことを書いていました。

「僕は友達のおかげで、算数ができるようになりました」

私はこの時ハッとしました。僕はいつも「子どもたちの役に立ちたい」と思って、教師の力でなんとかしようとしていました。そして「先生のおかげで、算数ができるようになりました」という言葉を心のどこかで期待していました。でも、子どもたち同士がお互いに「役に立った」と思える方がずっといいじゃないか、とこの時思えました。

それから私はこのように声をかけるようにしました。
「Bさんのおかげで、今日の問題がわかるようになったね」
「Cさんの分からないって言ったおかげで、みんなが気づくことができたね」

ある時、Aさんは、言いました。「先生、僕はいつも算数を教えてもらってばっかりだから、誰の役にも立ってないけど、いつか誰かの役に立てるようになるよ」と。そんなAさんに僕は言いました。「いや、あなたはもう、はじめからみんなの役に立っているよ。あなたが『分からない』って言ったから、他の子たちがあなたに教えて、学んだんだ。分からないことは悪いことじゃない。あなたのおかげで、みんなが学んだんだよ。あなたは役に立っている」

Aさんは不思議そうな顔で「ま、いいっか」と言い、にっこり笑いました。

誰かの役に立てたこと

そんなAさんたちも、小学校を卒業し、まもなく大人というところです。
小学校卒業後、どこでどのように生活しているか私には分かりません。小学校の教師として関われるのは１年程度。その後の人生において、彼らの役に立てかどうかは、分かりません。

ただ、彼らが小学校の頃のことを思い出して「誰かの役にたとう」「自分の存在は誰かの役に立っている」と思ってくれたら、私にとって「誰かの役に立てたことなのかもしれないなと思います。

「先生のおかげで」と言ってもらえることは、教師として時々もらえる「ご褒美」みたいなもの。それももちろん大事だけれど、子どもたちと一緒に過ごした思い出やつながり、そして子どもたちの成長が、僕にとって大切な「宝物」なのかなと思います。教師という仕事は、魅力的な仕事です。

#誰かの役に立てたこと