G7のソルファニャーノ憲章の採択についての雑感
先月末に、内閣府特命担当大臣の三原じゅん子参議院議員も参加して、イタリアのソルファニャーノで担当会議が行われ、最終的にソルファニャーノ憲章が採択された。もちろん日本もこの憲章に署名した。
憲章なので、理念的なものであり、まだ実効性は伴わないものの、二国間あるいは多国間どうしの働きかけで、国内でのこの憲章の実施を促進させるということは決議された。
内容をまだ書いていなかったが、障害者の人権と社会的包括に関する内容であり、見た感じでは障害者権利条約よりも踏み込んだ形でG7がこの内容を政治的・社会的に実行していきますよという宣言だから、徐々に法制度に降りてくるだろうと思う。
一つ欠けているのは、障害者権利条約と同じ精神障害者に対する医療面や精神保健福祉においての人権的取り扱いについての明記であり、それは医療的に進んだ他の先進国には自明のことであり、後進的な日本だけが取り残されているのか、あるいはその部分をあえて外したのかという点である。
市民的、社会的に障害者の人権向上を含めたインクルージョンを高めていこうという趣旨に大いに賛同するし、まずは憲章を決めてあとから具体的に細部を詰めていこうという方針なのだと思う。
心の病の患者として喜ばしいのは、障害者の権利という形でも人権がG7で明文化されたことで、これはコロコロと内容が変わるレベルの取り決めではないはずなので期待は大きい。僕は精神疾患の患者は医学的、科学的あるいは社会的に見ても障害者とは厳密には言えないという持論があるが、それをさておいても権利向上は望ましい限りなのは言うまでもない。
全体的に障害者全般に対するリカバリー志向というか社会参画や労働面での支援等が明記されており、その部分は憲章としては具体的でかなり評価できる。障害者権利条約と違い、実際のアクションに繋げやすい内容の憲章だと感じた。
一つ違和感を覚えるのは、憲章の冒頭に書いてある社会的、市民的権利向上という部分で、精神保健福祉あるいは精神医療はそれを阻害している部分が大きいと感じるのだが、日本政府もその点には踏み込んでいくのかどうか、個人的には疑念が残るし今後の展開も不明だ。しかし、精神障害者の市民的、社会的領域の権利向上は精神保健福祉改革の推進が含まれるであろうし、G7との協議の中で憲章の実効性が検証されると思うので、個人的には各国から日本の精神保健福祉や精神医療改革も求められるのではないかと考えている。
全面的なリカバリー志向の採用という点では、これは喜ばしいことであり、リハビリテーションで回復しないままでも社会参画をして自分を活かすという方向性が明記されたのは、国際間の憲章としては画期的だと思う。
時代が動き出したと感じるのは、今までは精神保健福祉の民間業界が、精神疾患の患者に「降りていく生き方」というスローガンを散々喧伝していたし、それはべてるの家や一部の精神科医も含む意見でかなりの患者が影響されていた部分があるが、G7の憲章もエビデンスに基づき、かつ理念的でもあるので、空想で終わらないであろうという予想を立てている。べてるの家批判は何度も繰り返しているし、再度書くが、欧米の精神保健の主流になっているリカバリーという考え方が、ちゃんとした国家間の憲章として採択されたのは、今後の日本における精神保健福祉の基盤的な考えにヒビを入れる可能性があると睨んでいる。
簡単に言えば、べてるの家のように、患者を治さず、閉鎖的なコミュニティーで、当事者研究というエビデンスのない偽心理療法を続けながら、「降りていく生き方」を続けるという考え方が、国際政治の中で明確に否定されたという点が僕にとっては非常に大きい部分であると思う。
こういった言論の自由や表現の自由、例えば結社の自由に関しても、本来は可能なはずなのであるが、これでちゃんと法律に権利として明記されていく可能性が高いと思う。つまりは、一般市民に与えられている社会的な権利を障害者も持ち得るし持てるようにしようというのが今回のソルファニャーノ憲章の趣旨であり意義なのだと思う。
予想なのだが、G7およびEUの影響で日本の精神保健福祉の改革にも繋がる可能性があるし、自分にとってはかなり大きな一歩だと思う。まだ、あまりこの事に気がついていない人も多いだろうし、特別支援教育を受けた人を対象とするイメージが有り、メディアでもそのように報道される可能性が大きいが、実際は「精神障害にも対応した地域支援包括システム」(にも包括)や精神医療自体にも徐々に影響を及ぼすものであろうので、その予測は書いておく。
実際、国連の世界人権宣言も国際人権規約を中心にして障害者権利条約や女性差別撤廃条約、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約等に下ろしてきたというか実行可能な形に条約化され実効性を持つので、そのように今回のG7のソルファニャーノ憲章も条約的な効力を持って障害者の市民的・社会的権利を向上させるとともに、精神医療及び精神保健福祉の改革にもつながってほしいと願っている。今後の経過を見守りたい。この憲章の採択によって、時代の潮流は確実に変わるだろう。そう予想して文を終えたい。