高比良くるまの漫才理論と教員における授業準備:自己認識と客観的評価の重要性(声に着目して)
以下では、令和ロマンの高比良くるま氏が語る漫才理論をもとに、「教員における授業の準備や心がまえ」にどのように応用できるかを論じる。引用は明示しているが、内容を踏まえつつ、教員が授業を構成する際の視点・実践例・改善の方策などを示すことで、本稿の目的とする“漫才理論の授業づくりへの活用”を提示したい。
1. はじめに
漫才は、観客を笑わせるだけでなく、限られた時間と舞台空間の中で、論理展開・声の使い方・身振り手振りを駆使して効果的にメッセージを伝える高度なコミュニケーション行為である。令和ロマン・高比良くるま氏は、自身の漫才における表現の心得や客観視の重要性について以下のように主張している(高比良くるま、2024)。
高比良くるま氏の主張(要約)
これらの主張は、授業という「教室」の舞台で「学習者(観客)」に向けてメッセージを伝える教員にとっても、大いに参考になると考えられる。これら4点を軸として、教員の授業づくりにおける心がまえを論じることが本稿の目的である。
2. 高比良くるま氏の漫才理論におけるキーコンセプト
2.1 「自分と他者の認識のズレ」
高比良氏は「自分の声って自分がいちばんわからない」(高比良くるま、2024)と述べている。教員においても、自分がわかりやすいと思って提示している板書や話し方が、必ずしも学習者にはわかりやすく伝わっていない可能性がある。
特に、声の調子、板書の文字の大きさ・配色、ジェスチャーといったものは、教員側では自然に行っているつもりでも、学習者には伝わりにくい場合がある。ここにある認識のズレを自覚することが第一歩と言える。
2.2 「無意識の部分が根幹を支える」
漫才の舞台においては、“音色が合っているかどうか”など、観客は普段あまり意識していない。しかしそれらが根幹を支えていると高比良氏は指摘する。授業でも同様に、声の強弱・トーン・抑揚・アイコンタクト・姿勢など、学習者の理解や興味の維持に重要な役割を果たしている可能性が高い。
無意識の所作をプロ意識をもって点検し、授業設計にも織り込むことで、教員の授業力は大きく変化するだろう。
2.3 「客観的な手段による研磨」
高比良氏の提唱する録画・録音の活用は、教員にとっても有益である。近年、オンライン授業やハイブリッド授業が増え、授業の映像を後日視聴可能な形で保存する事例が広まっている。こうした記録を自分自身で客観的に見直し、改善点を洗い出すプロセスは、漫才のネタチェックと同様に有用である。
授業の内容(板書・スライド構成)、声の強弱、テンポ、言い回しなど、録画・録音を通じて初めて見つかる改善点は多い。したがって、録画・録音の定期的な見直しを授業計画の一環として組み込むことが望ましい。
2.4 「映像と音声の使い分け」
高比良氏は、映像で見ると画が入る分バイアスがかかるため、録音のみの確認も推奨している。教員は授業映像を後日確認して、“板書の見やすさ”や“教室の動線”を点検しがちだが、音声だけを聴くと、授業の言葉遣い、声のトーンやスピードの問題に気づきやすい。画面から得られる情報を意図的にシャットダウンすることで、言語的・聴覚的要素にフォーカスできる。
このように、映像と音声を分離して確認することで、生徒の立場や当事者(教員)の立場では見逃しがちな問題点を洗い出すことが可能となる。
3. 教員の授業づくりへの応用
3.1 授業準備段階での自己認識のズレの補正
まずは、教員が自らの“声の特徴”や“無意識の所作”を客観視しづらいという事実を受け止めることが重要である。具体的には、
• 授業リハーサルを録画・録音しておく
• 同僚教師や先輩教師とのフィードバックセッション
などを導入することで、“自分がわかりやすいと思っている授業”が本当にそうなのかを検証する。これは漫才におけるネタ合わせや修正作業と類似したプロセスである。
3.2 授業中の隠れた要素(無意識部分)の点検
教員は、板書や配布資料の作成など、事前準備に意識が向きがちであるが、声の出し方(トーン・スピード)や身振り・手振り、教室内の移動動線などの無意識な部分こそ、学習者の理解と意欲に大きく作用する。
漫才で観客が意識しない部分にこそ、演者がプロとして気を配るように、教員も「自分が普段あまり意識しない指導行為」をあえて可視化し、場合によってはルーチンを見直す作業が必要になる。
3.3 授業改善サイクルに映像と音声を組み込む
授業を録画する体制が整っている場合には、定期的に録画を確認して改善点を洗い出すサイクルを回す。加えて、音声だけを抜き出して聴く機会を設けることで、自分の言い回しのクセ、語尾の処理、間の取り方といった、映像付きでは気づきにくい要素を客観的に把握できる。
映像と音声を切り分けて確認し、複数の視点(視覚的・聴覚的)から評価するアプローチは、高比良氏が述べる「バイアス」を最小限にする方法でもある。
4. おわりに
令和ロマン・高比良くるま氏は、自身の漫才の表現や演出に関して、「実際の舞台を録画・録音し客観的に確認する」「無意識の部分を意識的に磨く」といった手法を強調している。漫才と授業は場こそ異なるが、限られた時間・空間の中で伝えたい内容をわかりやすく伝達し、相手の反応に合わせて修正を加えるという点で共通する。
したがって、教員は漫才理論をヒントに、自らの声や所作を客観視し、録画・録音を繰り返し確認しながら、無意識の根幹部分を磨き上げるプロ意識を持つべきである。とりわけ、映像だけに頼らずに音声のみも定期的にチェックすることは、授業改善の大きな鍵となり得る。
最終的には、自分が思う授業イメージと、学習者が実際に受け取っている体験の差を埋めることが、教育効果を高めるうえで不可欠である。そのための方策として、高比良くるま氏の漫才理論は多くの示唆を与えてくれると言えよう。
参考文献
• 高比良くるま(令和ロマン)、石田明(NON STYLE)「【べた褒め】M-1グランプリ2023を振り返る!最強の漫才とは?/高比良くるま(令和ロマン)、石田明(NON STYLE)【高比良くるま #3】」YouTube、2024年3月15日公開
https://youtu.be/b6LKw289yjc?si=3U31BQdRcOdGAPLW (8:20~より)