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ご縁があってもなくても

12月某日

出勤時、川沿いを皆が向かう駅とは反対の方向に走る自転車が、サドルの真ん中にスマホを立ててサドルに上半身をべったりとくっつけるようにしてスマホに魅入りながらのったりのったりと走っている。
背中には大きな岡持ちくらいの直方体のリュックを背負っている。前から見ると亀の甲羅みたいなものが自転車にまたがって走っているみたい。
そこだけがせかせかと駅に向かう人たちの時間と違う時間の流れ方をしているように見える。
年の瀬なのか朝は毎日道路が渋滞している。渋滞している時の車の顔は怒っているように見える。

夜 白い煮たもの、芋ご飯
白い煮たものは、冬瓜と漬け卵、油揚げの袋煮、ちくわ、生姜を透明なスープで煮たもの。白い器(家にはこれしかない)に入れて出したら、子が「なんだか白くておしゃれだね」と言ったので、勝手に命名。

ツユクサナツコの一生がとてもよかった話を子にする。
子「そんなにいいんなら、私も読んでみようかなぁ」
私「いいよ、貸してあげるよ」
子が本を手にとって2ページほどめくる気配がして、その横顔を見て急に気が変わる。
私「やっぱり、だめだ。返して」
子「?????」
私「これは、子が本当に縁があったら必ず出会える漫画だと思う。そうしたら読んでほしいかも」
子「??????」
私「これは絶対名作だから、作者が亡くなってもなくならない漫画だから。必要になったときに読んで欲しいかも」
まあるいアーモンドのような目がさらにまあるくなる。ページを開いたまま手に置かれていた本を静かに閉じて「なんか本当によくわからないけどわかった」と言って、本を私に渡してくれる。
もしかすると子は、一生この漫画とは縁のない生活を送るかもしれないし、私が死んでから縁ができるかもしれない。
いつか必要になった時、自分で選んで読んでほしいなぁとページをめくる気配を感じて、子の俯いたずっと小さい時から見てきた横顔を見て急に思った。嫌な親だなぁ。

仕事場の仲間から「エアコン不調。明日は壊れているかもしれないので完全防備で来てね」との連絡が入っていた。急に憂鬱になる。

人として生まれて渦を巻いている
次の戦車をお待ちください

平岡直子川柳句集 Ladies and

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