死と焦り
「本日も過去に見ないほどの猛暑日になる模様です。」と鳴くキャスター。
しおしおしおしお・・・と、まるでこれから街を焼く熱の擬音を代弁するかのような控えめな蝉時雨。
・・・・本当に朝早くからご苦労様の一言に尽きる。
父の喉元のリンパに悪性腫瘍が見つかった、と母から聞いたのは、
ちょうど眠気覚ましに顔を洗っているその時だった。
奨学金の書類の不備って何が足りなかったんだろう、と
寝起きでまだぼんやりとしていた頭には、とてもとてもカロリーの高い話。
途端に脳裏を駆け巡ったのは、父の死後の生活だった。
毎食、4つしか出さなくなった食器類、母ひとりが横たわる寒そげなダブルベッド、主のいなくなった書斎、机、ペン、Yシャツ、スマートフォン・・・
あぁ、きっと、
このマンションにも住めなくなる。
新しくつけることを余儀なくされるであろう家計簿、引っ越しの時は家具も整理するのだろうか、
そんな、テレビの砂嵐が入り混じったような、雑な憶測を巡らせた。
タオルは生乾きのにおいがする。
私が家計を支えなければならないのか
僕がしっかりしなければいけなくなるだろう
自分が変わらなければいけないか
もっと遊べると、
あと少しは学生の、
まだ子供でいられると思っていた。
決断を迫る現実と夏の生ぬるい風は、足元からじわじわと肌を撫で上げていった。
大人にならなければいけないという焦りは、
全身からじんわりと滲み出てきていた。
なんとも言えず、
何を言えばいいかわからず、
「わかった。」
とだけタオルに残した。
今日もまた''世界''ははじまる