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京都でカレーに追いかけられる元旦2025

元旦の朝、僕はキッチンで昨日の残りのコーヒーを温め直しながら、今年最初の予定を考えていた。特に目新しい計画もなく、頭に浮かんだのは「初詣」という平凡な言葉だった。でも一人で行くには少し気が引ける。何となく寂しさが増幅しそうだった。そこでふと思いついたのが、カレー友達の玲奈に声をかけることだった。彼女は、独特のカレー愛を持った女性だ。僕が以前通っていたスパイスカレー教室で知り合った。二つ年上の弟がいるような軽快な話しぶりと、少しクセのある笑顔が印象的な女性だ。

「玲奈、元旦なんだけどさ、もしかして今日暇?」とLINEを送ると、数分で「行く! 京都だよね?」と返事がきた。その軽快さに僕は思わず笑ってしまった。玲奈とはそんな関係だ。特別に深いわけでもないが、無駄に気を使わずに済む。

そんな玲奈は、意外にも着物姿で現れた。ちょっと驚いたけど、まあ、元旦だし、初詣だもんな。そんな風に思いながら、京阪電車で京都に向かう道中、玲奈は窓の外を眺めながら、「今年の目標はもっとスパイスの奥深さを追求すること」と言った。彼女がこんな話をするのはいつものことだが、意外とその内容には理論と実践がしっかり詰まっている。僕は適当に相槌を打ちながら、少し羨ましい気持ちになった。目標を持つというのは悪くないことだ。

初詣は八坂神社だった。冷たい空気の中、僕たちは境内を歩き、参拝を済ませた。玲奈は真剣な顔で願い事をしていたが、何を祈ったのかは聞かないことにした。多分、カレーのことだろう。

その後、「お腹空いたね」と玲奈が言ったので、僕たちは通りがかった小さなフレンチレストランに入った。外の看板には「本日はスパイスカレーの日」と書かれていた。その偶然に、僕たちは目を見合わせて笑った。カレーが僕たちを追いかけてくるのだ。

元旦からさっそく、僕と彼女はカレーに追いかけられた

運ばれてきたカレーは、美しく盛り付けられた一皿だった。ターメリックライスに、クローブとカルダモンが香る鶏肉のカレー。僕たちは無言でそれを味わった。玲奈が「やっぱり、スパイスの魔法だね」と静かに言った時、僕は彼女の横顔を見ながら今年が悪くない年になりそうだと感じた。

食事を終えた後、僕たちは静かな道を歩いた。京都の冬の空気は澄んでいて、鼻先が少し痛くなる。その痛みすら新鮮だった。僕は心の中で、何かが少しずつ動き出しているような感覚を抱いていた。たぶん、それは玲奈の笑顔やスパイスの香り、あるいは八坂神社の冷たい空気のせいだろう。

ふと、前を見ると、四条大橋の向こうに、東華菜館が見えた。
これも、ヴォーリズ設計の名建築だ。

アメリカ人建築家 ウィリアム・メレル・ヴォーリズ氏による東華菜館
ヴォーリズ氏が手がけた生涯で唯一のレストラン建築

「今年も良い年になるといいね」と玲奈が言った。その声に、僕はただ頷いた。そして思った。今年もカレーに縁がありそうだ。いや、縁があってほしい。玲奈となら、なんだって楽しくなりそうな気がした。

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