#1 会食はセックスであり、プロレス。青木真也の処世術
カレー活動家・タケナカリーと格闘家・青木真也の対談連載を始めます。
第1回のテーマは「会食」について。青木真也の会食への挑み方から、彼らしい気遣いを感じる対談となりました。
本日のカレー
初回のカレーはタケナカリー作。油を通常の1/3まで減らしたスパイスカレーです。
スパイスとベジブロスを煮出して特殊なスープをつくりカレーの加水に使うことで、油が減ってもさっぱりしすぎない。決めてのスパイスは、クローブとブラックカルダモン!
会食は “受け身をどう取るか” が問われる勝負
タケナカリー:青木さんはよく「会食にはセンスが出る」と言います。「混ざる」という視点で誰かと親密になるためには会食というコミニケーションは切っても切り離せない行為ですよね。
青木:会食は最初に言っておきますけど、国威発揚になる可能性があるんですよ。
タケナカリー:国威発揚?!
青木:自分たちがいかに権力があるか、お金を持っているか、っていうのを見せつけるための国威発揚になる可能性。国威発揚なのか、相手を尊重して敬意を示してるのか、そのバランスが難しいですよね。
タケナカリー:なるほど。いきなりおもしろい話になってきましたね(笑)。
青木:会食が国威発揚になるとダサいんだけど、もう一つの半面として、相手に気を遣っています、相手を尊敬していますっていう姿勢をいかにバランス取るか。あんばいが難しい。
タケナカリー:あ、そこは本当にそうですよね。その姿勢を感じるか、感じないかで印象が全く違う。
青木:それがセンスです。
タケナカリー:言い切った(笑)。
青木:で、やっぱ一流の奴がいて、中には。相手とのバランスも含めて会食のチョイスを持ってくるっていう、絶妙な奴がいるんですよ。広告やテレビマンはそのクオリティーがすごいと思う。要はそういう教育があるってことでしょ。例えば、この人とこの人は席が一緒にならないように、芸能人だったら窓がないように、とか。そういう配慮が抜群だと思うんですよ。
タケナカリー:ちゃんとそこにはカルチャーがあるんですね。
青木:個室にするとか最低限のルールというか、押さえるとこと押さえて、あとは国威発揚してくるかバランス取ってくるかじゃないですか。で、僕みたいな味があんまりわかんない人からすると、一定超えたら味のクオリティは一緒です。
タケナカリー:でも青木くんって、味の強さには敏感ですよね?
青木:仕事がら身体の変化には敏感なんですよ。練習してると塩分は出ていきますからね。自分の中で塩っ気が強いとか、甘いとかはあるんです。
タケナカリー:それはすごいことだと思うんだよな。自分に合う塩っぱさ、甘さってみんな意外とわかってないですよね。
青木:まあ「あぁ美味しいなぁ」とかは全然ありますよ。でも、会食は、受け身が取れるか取れないかだから。
タケナカリー:受け身が取れるか取れないか?
青木:食べる側がですね。要は向こうはさ、格闘技選手なんていう文化とも金とも経済ともほど遠い、底辺に置かれてるっていう人間に対して、六本木だ麻布だっていう土地の日本が世界に誇るようなもの食わせてやるよっていうわけじゃないですか。
タケナカリー:素直にうなずけないけど、そうですね(笑)。
青木:それに対して、どう受け身が取れるかがやっぱ大事だと思うんですよ。
タケナカリー:青木さんはどう受け身を取るんですか? スタイルがある?
青木:僕は “え、ちょっと、わかんないな、これ” みたいな感じになっちゃうことが多くて「おぉ」「んんーん」みたいな感じなんだけど、優秀な奴はビックリ芸が出来るんですよ。
タケナカリー:タニマチ芸ですね(笑)。
青木:僕は、お寿司はお寿司の域を超えない人だから “お寿司美味しいな。でも自分では食べないな” っていう感じなんだけど、隣の奴がリアクションすごくて。「す、すげぇー!こんなの食べたことない!え!嘘だろ!」みたいな。まるで生まれて初めてアイス食った子供みたいなリアクションをするわけ。そんなリアクションするもんだから、俺も困っちゃって。で、落ち着いたときに「味分かってんのか?」って聞いたら「わかんないです」って。嘘~!と思うよね。
タケナカリー:すごいですね(笑)瞬発力でやってんだろうな。
青木:これは猪木会長の言葉なんだけど、どこに行っても「勝負してきやがる」と。料理人だったり、もてなす側の人だったりが勝負してくるんだって。要は “アントニオ猪木にこの肉を美味いって言わせるんだ!” みたいなモチベーションで来られちゃうっていうことが結構ある。その相手の方も、もてなしてあげようっていう気持ちが強くなっちゃうんですよね。で、そうなるとやっぱ勝負になっちゃうじゃないですか。打ち合わなきゃいけないし。そこはやっぱ気をつけるようにしてますね。
タケナカリー:それってやっぱリラックスできないですよね。
青木:会食は勝負だから。2時間枠の中で、いかに自分のパフォーマンスと、自分のプロモーションをして帰るかっていう勝負なんで。いろんな芸風あるけど、僕は2時間枠の選手なんですよ。きっちり2時間で帰ります。ただやっぱ長距離選手もいる。
タケナカリー:ダラダラ飲みたい人と合わせられる、みたいなことですよね。
青木:だし、ノリとか調子とか体力で押し切るタイプ。そういうタイプは強いよね。僕はもう、2時間枠の選手。そこを超えるときはもう本当に仲良いか、いい関係性じゃないと行かない。でも、2軒、3軒、4軒はしごする選手もいるし、そこで甘えて甘えて甘える技術を持ってる選手もいる。どっちがいいかわかんないけど、身を滅ぼしてるのはやっぱ長期戦のほうが多いですよね。
タケナカリー:長期戦は限界来ますよね。僕も昔は朝までとか飲んでたけど、もうできなくなった。続けてたら身体壊しちゃいますよね。
タニマチに甘えることをよしとするカルチャーは、僕らをダメにする
青木:あと僕、自転車で移動してるじゃないですか。都内自転車で移動してる理由の一つに、お車代をもらわないっていうのがあります。
タケナカリー:なるほどね! たしかにそういう文化ありますもんね。
青木:お車代の気を遣わせないためです。それやられちゃうと、フェアな関係じゃなくなっちゃうから。メシ食わせてくれるけど仲良くしてくれる本当にツレのような関係性の人がいるんだけど、たまたま5月に試合するときにセコンドがいなかったの。その頃、息子さんが格闘技やってたから「息子貸してよ」って連れてって。その人からすればうれしいわけよ。「自分の息子を連れてってくれてありがとう青木さん!」みたいなのがあって。「空港まで送ってくよ」って言ってもらえて、京成線で行かなくていいやラッキーと思ったんだけど。「じゃあ行ってきます」って言ったら、ちょっと金を包んで渡そうとするわけ。要はこうするもんだってのが、無自覚に染み付いちゃってるんだよね、そういう文化の人。もう、送り返してやったね。その場で「これもらったら関係崩れるから。一切受け取りません」って。友達いなくなっちゃうから。
タケナカリー:うわー。すごく大事だと思います。対等を意識する、ですね。
青木:もう徹底してます、そこ。タニマチで人間関係崩した人たち、いっぱい見てるから。お車代とか小遣い的なものをもらわなければ、みんなフェアな関係で仲良くいられたと思うんですよ。そういう関係性になっちゃったがために、うまくいかなかった関係っていっぱい見てきてんすよ。だからその学びは、深い。あとおもしろいのは、もらってる奴って「おっ、今日くれないんだ」って言い始めるから(笑)
タケナカリー:(笑)。でもそうかもしれないですね。2時間の会食がどれだけ本気かっていうのが、今のお話でなんとなくわかりました。
青木:2時間は本気ですよ。お車代を「はい」って渡してくる人はいます。でも、それは僕にとって浮世離れしてるってことなんですよ。タニマチって、そういう人に甘えることをよしとするカルチャーじゃないですか。それはよくないと思うんですよね。やってくださる方々が悪いわけじゃなくて、俺たちが崩れていっちゃうんですよ。
タケナカリー:芸人さんとかもよく聞くじゃないですか、その話って。それがキャッチボールだ、みたいな感じになってるけど、別にそれが何かを産んでるわけでもないんだよね。
青木:そうです。あんまり意味のない、好きじゃないことでそんなに金を欲しくないよっていうのと、ある程度実働してやりたいよね、みたいなことですよね。みんな身を滅ぼしますから、それで。自分の中でのスタイルみたいのを崩さないようにしていかないとダメです。借りてきた猫感になると嫌じゃないですか。かまされないように。
タケナカリー:確かに甘える関係から、かましてくるって人っていそう。かましてくるって、マウントとってくる感じと一緒ですね。
青木:僕の短パンでリュック背負って自転車乗ってるのも、そういう意味での自衛ですからね。
タケナカリー:“もう俺、これなんで” っていう。
青木:“お前らの価値観は俺に通用しないよ” っていう。“どうだ、俺のちんちんでかいだろう” みたいなこと言われても、そこになびかない。ルールが違う、っていう表明なんですよ。それがないとやっぱみんなダメですよね。
タケナカリー:ちんちんって(笑)そこは笑っちゃうけど、その感覚ってめっちゃ正しいな。
青木:持ってるものがいくらで、いくら稼いだ、みたいな文脈に入ると、ライバルがちょっと尋常じゃなくなっちゃうんですよ。スティーブ・ジョブズと戦うか?みたいな話になってくるじゃん。
タケナカリー:上を見たらきりないですもんね。
青木:自分の枠、自分の軸みたいなものを大切にしていきたい。
タケナカリー:それは僕すごく青木くんから影響受けてる気がするな。自分でカレーグッズつくるとか、そういう感覚あるもんね。
青木:僕、めっちゃ感じ悪いと思います、相手からすると。「何々買ってあげるよ」とかいわれても「いや、あんまりほしくないです」みたいな(笑)。
会食はセックスであり、会食はプロレス
タケナカリー:僕が青木くんと一番最初に会ったのって、2007年の『やれんのか!大晦日!2007』の試合前の食事会で焼肉屋かなんかで。
青木:そうそう。
タケナカリー:焼肉あんまり好きじゃないんですよね、青木くんって。牛タンばっか食べてすぐ帰る、みたいな(笑)。当時、僕らよくわかんなくて “なんか悪いことしたかな” と思ったら、普段からそういう人だったっていう。
青木:格闘技選手の会食自慢みたいなのって、もう恥ずかしいことだと思ってて。肉の写真をインスタにたくさんUPするとか。僕は会食をするときは、ある程度リクエストを出しちゃいますね。「ごめんなさい。あんまり肉は得意じゃなくて。たくさん食べる感じでもなくて。2時間しっかりお話できればありがたいです」までちゃんと伝えます。要は、もう “かまさないでね” ってことじゃないですか。それができちゃうといいですよね。
タケナカリー:青木さんはお酒飲まないじゃないですか。だから僕も青木さんとごはん行く時は絶対カレー屋さんって決めてますもんね。そこでは僕もお酒をほとんど飲まないです。
青木:お酒は一切飲まない。これ本当にでかくて、間違いがないんですよ。
タケナカリー:間違いがある人がいるってことですね、酒飲むと。
青木:よく最近、界隈で間違いの話を聞くわけ。やっぱり全部お酒が原因ですよ。僕、素が見えちゃうから2時間で帰るのかもしれない。良くも悪くもその人が見えちゃう時間だと思うんですよ。見られてるし、見るし。コミュニケーションっすよね。本当の会食。だからそれをすごく大切にしてるんです。相手に対して敬意がある、これだけ相手を理解していこうと思ってる、っていうのを伝える時間。まぁセックスみたいなもんです。要約すると。プロレスやってる人はうまいんですよね。
タケナカリー:プロレスラーは技を受けて、返す競技だから、コミュニケーションのキャッチボールも上手ってこと?
青木:そう。対象的に格闘技選手は、一方通行になりがち。
タケナカリー:すごい納得!なるほどね!いい話ですね。会食はプロレス。名言だ。素晴らしいですね。
青木:格闘技の中でもコミュニケーションが上手い選手は当然いるし、そういう子はうまくやってますよ。ただテイクし続けようっていう子たちは、その場でテイク出来ても先に繋がらないですからね。その人の財産にならない。なんか最近、それって大事だなって思ってるんです。ファイトマネーも結局はあぶく銭なんですよ。あぶく銭で、自分たちがちゃんとコツコツ働いてるっていうのが大事な気がする。面と向かって八百屋みたいに稼ぐ商売をちゃんとやっていかないと、身を滅ぼすと本当に思ってます。
タケナカリー:それはあるな。でも青木さんはnoteでの記事もだいぶコンスタントに書いてて、コツコツがうまいですよね。
青木:いや、あれもあぶく銭ですよ。どうしようもないっていうか、くだらない生き方、くだらない人生を送ってしまったからこそ、少しは世の中のために役に立とうと思って何かやってるだけが救いであって、遊蕩三昧だから、基本的に。
タケナカリー:そんなことないでしょう!(笑)あれはコツコツですよ。
青木:そうかなー。最近思うんですけど、遊ぶように仕事するって、実際になってみると超不安なんですよね。だって周りの人、みんなめちゃくちゃしっかりしてるじゃん。俺、これでいいのかな?みたいに思うことがしょっちゅうありますよ。
タケナカリー:すごく意外です。これは次回のテーマにしましょう。「遊ぶように仕事するって不安」って。今日はありがとうございました!
〈文 / 撮影 橋本範子〉