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漢文の海で釣りをして【第15回】閃きは日常のなかにある




「余、平生作る所の文章、多くは三上に在り。すなわち馬上・枕上・厠上なり」

《訳》私が普段、文章を作るのは三つの場所にいるときが多い。馬で移動しているとき、布団の中にいるとき、トイレで用を足しているときだ
《出典》『帰田録』

「お風呂に入っているときにアイデアが浮かぶ」というような朋友の書き込みをみて思い浮かんだのがこれです。

上の文章の作者は欧陽脩。
宋の時代を代表する文人です。
彼が文章のアイデアを考えるのによい場所・場面を挙げた有名な一文。
共通するのは静かにひとりで物思いに耽ることができるということでしょうか。
何かを考えようとするでもなく、突然アイデアが浮かんでくるような感じです。

大学院で私の師匠が新入生にむけて話したのがこの欧陽脩の『帰田録』でした。
よいアイデアというものは何でもないときにふと浮かんでくるときがある。
馬上(現代なら車や電車でしょう)、枕上、厠上というのは日常のなかにあるもので、特別な場所ではない。
特別な環境でなくてもよいアイデアは浮かぶもの。
浮かんだアイデアはすぐに書き留められるようにしておくように、というのが師匠からのメッセージでした。
(しかし、この書き留めるまで覚えているということが難しい)

さて、静かにひとりで物思いに耽ることができる環境となるとお風呂も然り。
欧陽脩が生きた宋代には入浴という習慣は一般的ではありません(なかったわけではないですが)。
もし彼の時代にお風呂に入ることが習慣化されていたら、さしずめ浴上も加えて四上になっていたかもしれません。

ちなみに古代ギリシアでは入浴中に物理学史上に残る大発見を閃き、歓喜のあまり裸のまま街中を駆け出したという男がいました。
「エウレーカ! エウレーカ!(わかったぞ!わかったぞ!)」と全裸のまま風呂を飛び出した男こそ、アルキメデスでした。

余談を重ねると「エウレーカ」の英語読みが「ユリイカ」。
日本でも文学や思想の批評を中心とした月刊誌『ユリイカ』でお馴染みです。

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