漢文の海で釣りをして【第14回】愛と勇気といくらかのお金
「倉廩満ちて礼節を知り、衣食足りて栄辱を知る」
《訳》倉庫に十分な食べ物があってようやく礼儀や節度の大切さを知ることができ、衣食に困らなくなってようやく栄辱を理解することができる
《出典》『史記』管晏列伝
短縮バージョンの「衣食足りて礼節を知る」でよく知られている句ですね。
中国古代の宰相・管仲の語。
宰相は王や皇帝を補佐する総理大臣のようなものだと思ってもらえればよいです。
中国で「管仲のようだ」と言えば「デキる政治家だ」というような名宰相の代名詞という人物です。
仕事はできるのですが、派手好きで浪費癖があり、素行については評判がよくなく、かの孔子には「あんな礼儀知らずはいない」と言われています。
そう言いながらも、同じく孔子に「管仲がいなかったら今ごろ中国は異民族に蹂躙されて滅びていた」と、その能力は認められている男です。
完璧な人間ではないあたりが魅力でもありますね。
さて、今回の句ですが文章としてはそれほど難しいものではありません。
やはりひとたるもの、ある程度の生活の見通しが立たないと不安の虜になってしまうものです。
生活の資としていくらかのお金はやはり必要になってきます。
「人生に必要なものは愛と勇気といくらかのお金」というチャップリンの言葉は至言だと思います。
今日食べる食事や、明日寝る場所の心配をしなければならない状態では生きるのに精一杯で、心の安定を保つのは並大抵のことではありません。
礼節や栄辱の大切さを説く前に、生活を安定させてやることが国を富ませる秘訣。
実は管仲は税金を取るのであれば、まず先に与えてやることが必要だということ。
日本の諺で言うなれば「情けは人のためならず」のような感じでしょうか。
与えることが巡りめぐって自分にも返ってくる。
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