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【歴史本の山を崩せ#017】『古文書はいかに歴史を描くのか』白水智

《古文書はこうして「発掘」される》

ときどき新しい古文書が発見されたことがニュースとなることがあります。
もはや見つかっていない古文書はないと思われてしまっているかもしれません。
ところが、現実には各地の旧家の土蔵などにはいまだ未発見の歴史遺物が数多く眠っています。
そして、数多くの古文書が「紙クズ」として人知れず処分されていってしまっています。

こうした史料は冊子のようなかたちのものもあれば、手紙のように一枚もののものもあります。
それだけではなく、古くなった紙は襖の裏打ちに使われることもあれば、ユニークなものでは着物の補強にも使われていることがあります。
意外な形で現代まで残ることもあるのです。

こうした古文書のサルベージ、補修、整理、保存の現場での経験について書かれた本です。
フィールドワークの大切さ、史料整理の基本的な考え方を学ぶのに非常によい一冊といえます。
かの網野善彦とともに史料調査を行った際のエピソードなどもあり、読み物としても面白いです。

私たちは発見、整理された古文書を活字に翻刻した書物として読むことができます。
近年ではデジタルデータ化され、インターネットで家にいながらにしてそうした史料にアクセスすることができるものまであります。

古文書は歴史研究の基礎となる史料です。
それにも関わらす、この本で語られるような現地で古文書を掬い上げて、まとめ上げる営みは「業績」として十分に評価されていないのが現状。
書籍、ネットなどで我々が古文書にアクセスできるのは評価されない仕事を地道にこなしてくれている人たちのおかげであることを忘れてはいけないです。
学問としての基礎を成す部分がそういった人たちの善意によって保たれているような状況は、やはり改善しなければならない大問題です。
著者の貴重な経験をもとに書かれた「古文書はいかに歴史を描くのか」という話は、古文書の面白さを表していますが、同時に歴史学の課題も提示しています。

『古文書はいかに歴史を描くのか』
著者:白水智
出版:NHK出版
初版:2015年
定価:1500円+税

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