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【歴史本の山を崩せ#037】『関ケ原合戦と石田三成』矢部健太郎

≪秀吉が目指した支配秩序がもたらした合戦≫

敗者の立場から日本史を読み直そうという吉川弘文館のシリーズの1冊。
もう10年以上前にはじまり、すでに完結したシリーズです。

「関ケ原もの」は秀吉の死後から語り起こされることが多いですが、本書は秀吉絶頂期から筆を起こします。
秀吉が支配秩序として重視したのが「家格」。
個人に対して与えられる「官位」ではなく、家に対して加えられる「家格」によって豊臣宗家の地位を確固たるものにする。
豊臣宗家を武家として唯一、摂政・関白に任官できる摂関家と成り、他の大名家も「清華家成大名」「公家成大名」「諸太夫成大名」と、官位とは別に家格による序列を明確化する支配体制。
源氏政権、足利政権と、のちにつづく徳川政権が征夷大将軍(官位)をピラミッドの頂点とする武家政権を選んだことと比べると、摂関家(家格)を頂にしようとした豊臣政権のユニークさがみえてきます。

秀吉が目指した家格による支配体制という視点から、これまで自明の前提とされてきた関ケ原合戦の「前提」を検証していきます。
教科書にも出てくる五大老・五奉行と、彼らによる合議体制という重要キーワードも、イメージが先行するあまり実態とかけ離れている可能性が浮かび上がってくる。
秀吉が志向した支配体制と、それを突破しようとする家康の姿は関ケ原合戦という結果に行き着くことは変わりありませんが、その過程は従来のイメージとは異なった政治ドラマを描いています。

結果として起こった関ケ原合戦よりも、そこに至った政治的経緯に重点が置かれています。
タイトルにこそ「関ケ原合戦」と入っていますが合戦そのものの軍事的な動向や戦略・戦術、に関しては概略を示す程度です。
後世、「天下分け目」と称されることとなる合戦の石田三成の軍事、戦略戦術的な敗因(あるいは徳川家康の勝因)を分析するものではありません。
しかし、家格による秩序が合戦の布陣すらも拘束してしまった西軍(本文中では正規軍)に比べて、比較的、戦略的・戦術的に自由があった東軍(本文中では維新軍)という視点は面白いです。

政治の延長線上のひとつの結果として軍事的な衝突が発生する。
ふたつは決して切り離すことができないことがよくわかります。

『関ケ原合戦と石田三成』(敗者の日本史12)
著者:矢部健太郎
出版:吉川弘文館
初版:2013年
価格:2,600円+税

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