竹美映画評63 ボリウッドのランビール・カプール問題『Brahmastra: Part one SHIVA』(インド、2022年)
最近ボリウッドは曲がり角に来ているのではないか…そんなことが言われている。象徴的だったのは、ドル箱(ルピー箱?)スタァのアーミル・カーン主演・製作の期待作が興行的に失敗したこと。
何となくアーミル・ボイコットの結果として捉えていたものの、そればかりではなくて、飽きられているという可能性についても検討した方がいいのかなと思い始めている。音楽もストーリーも演技も全部いいので、海外で受けそう。日本でも公開が待たれる。
私のスマホが次々に関連ニュースを拾ってくるので完全に私は乗せられてしまっているが、アンチ・ボリウッドのご意見番のようになってきたVivek Agnihotri監督も益々元気だ。最近彼は、ザ・ボリウッドって感じのファンタジー映画『Brahmastra』に嚙みついている。となれば、前回考えたアルジュンとは別に、もうひとりのカプール君、ランビール・カプールに触れずにはおられんだろう。
ということで、色んなものを背負っちゃったファンタジー作品である本作を観て来た。
特撮の映像が美しいのはもちろんのこと、神様モチーフが活き活きしているインドにおいてこそ、この手のファンタジーが生きるのだと思わずにいられない。
字幕なしで観てしまったが、お話は子供でも分かるッ!
主人公の青年シヴァ(ランビール・カプール)はムンバイで孤児たちと暮らしている心優しいDJ。寺院で見かけた女性イーシャ(アーリア・バット)に一目ぼれ(チャラい)するも、幻視を見る。それは有名な科学者(シャー・ルク・カーン)が悪漢ども(クイーン・ベリル様再来な凶悪女ボス(モーニ・ロイ)と、その部下のガチムチ君とスリム君)に襲われ反撃するも、何か大事な石を奪われてしまうビジョンだった。その幻視に出て来た男性(ナーガールジュナ)を訪ねてバラナシに行くが、幻視に出て来た悪漢に襲われる。危うし!!そこでその男性の力を目にする。やがて、力の石(多分宇宙のバランスをつかさどっているか何かで、3つに分かれていて全部揃えたら優勝するんだと思う。名前はブラーマストラ)の方なのか、何かを守る集団のボス(アミターブ・バッチャン登場!)の導きによって、シヴァは自らの火を操る力を開花させていくが、そこへやっぱり悪漢がやってきた!ブラーマストラをよこせぇ(だみ声)!!
ボリウッドを代表するスターたち以外が霞んでおり、ちょっとあんまりじゃないかと思ってしまう場面もあった。カラン・ジョハルが率いるDharmaプロダクションが製作しているためなんだろうか。そういうところが嫌われるのよジョハル姐さん!カラン・ジョハル自体が父親の仕事を継ぐ形で映画製作にかかわっていること、主演カップルがどちらも有名な映画人の子息でしかも実生活では夫婦、元祖スターのアミターブ・バッチャンは、ぱっとしなかった息子アビシェークもいい役者として活躍するようになってきたっていう辺りに、もうね、上記のアグニホトリ監督もやっかみMAXでしょうよ←憶測。悪役のモーニ・ロイはすっごくいい顔してくれてアップになるたびわくわくしちゃったんだけど、何となく推しじゃない感があって勿体ない。「ブラーマストラはあたいのもんだよッ!」と喚くお約束感(私のレベルのヒンディー語能力でも聞き取れたッ)、大好きでした。
せっかく南の俳優ナーガールジュナ(この人も二世俳優で、息子もテルグ映画等で俳優やってて『Laal Singh Chaddha』にも出演、という身内びいきネタ満載…無傷なところがどこにもないわねw)を出したのに、彼の出演時間って10分くらいじゃないかなあ。小柄なおやじヒーローぶりがかっこよすぎてちょっと笑っちゃったってのに(好き)。彼のスピンオフ映画観たいよ私は(また男で映画を評価している)。
そして…ボリウッドの身内びいきキャスティングを疑わせるのが、よりによって主演になってしまったランビール・カプール!
確かに表情はいいし、身体も面白い形をしているのだが、いかんせん、顔が軽い。登場シーンもなあ…演技はうまいと思うけど、冒頭のダンスシーンがちょっと気恥しく思えてしまったのね。俳優である彼はそれを自覚しているんだろうか。ミスキャストとまでは言い切れないものの、そういうところよ、ジョハル姐さん…。彼に宇宙の運命なんか任せてはいけない。彼に任せていいのは近所の商店のレジ位だ。DJはいいだろう。金持ちのボンボン臭がどうしても消せないのだッ!あの長い脚ではオート三輪は運転しにくいだろうしな。
彼が自分の秘密(火で遊ぶ男なのね彼ね)をイーシャに見られちゃったときのやり取りがもうダメだったの。イーシャはびっくりして発作的に走って逃げそうになったんだけど(漫画w)、そこがさーランビール・カプールがやるとさーー「借金作ってたことがバレたバカ男とそれに切れる彼女」のシーンかなーっ?と思って観るとしっくり来るわけよー。秘められた力と重い責務みたいな厨二ロマンが決定的に似合わねー!!
彼は顔が明るすぎる。アルジュン・カプールみたいな目が死んでる主役なら、ファンタジーに闇が生まれてよかったと思うんだよなー。あー『Ek Villain Returns』と主役交代すればよかったのにぃ!
彼はもうすでに演技の評価はもらっているんだけれどなあ…。一緒に観に行った友達(日本から来てくれた!)は、「何かニコラス・ケイジ系の顔多いのかしらね」と言っていたので、そうね!その路線だな。或いはジム・キャリー路線を狙え!!!
その彼の横で、油断すると、ヒーローの座を奪い取りたいという野望がうっかり目にちらつくアーリア・バット。並んで立つと顔的に彼女が勝っているシーンが多い。今年出演した三本の映画は全部好評だったが、正直『RRR』での扱いは気の毒になってしまうし(エンディングで挽回するも苦しいッ)、『Gangubai kathiawadi』での活躍を考えると本作もまぁ、昔からの恩人からの依頼だし、いっちょうアルバイトしとくか!という感じなのかなぁ…。今後のシリーズで彼女が力に覚醒することを願っている。
カーリーの寺院にいたイーシャ役なんだから、カーリーになってシヴァを踏んづけて踊っちゃえ!!!あの像は実生活の何かを示唆していたぞッ!!!!
ランビール・カプールのために彼の周囲のモブたちの印象を薄くしている感があってどうもなぁ。それに、キャストたち、特にヒーロー側の人たちの肌の色が一様に薄いというのも現実のインドを反映しているとは言い難いし、悪役の手下にされてしまう人たちの風体に何かを感じてしまうの…場所柄なのかもしれないんだけども。そういうところを引っくるめてボリウッドらしい作品だと思う。ジョハル姐さんは、その活動の最初から、ボリウッド映画に新しいものを入れてきた人だと自負しているし、おそらくそうだったと思う。彼の作り出したものがボリウッドそのものになっていった。それは人気や支持の証拠でもあるけど、嫉妬ややっかみの源泉でもあるからなー。
ボリウッドに対して向けられているような批判は、まだ南インドには向いていないみたいだけれど、やがて身内びいきを批判されるかもしれないね。テルグの大御所は二世、三世ばかりになってきたし。
二世俳優として見られているランビール・カプールはここらで一発新機軸を打ち出すべきじゃないかと思うんだな、やっぱり。南インド映画に出てみるとか、自作自演の映画をやってみるとか…何なら、ギャラを下げてでもヴィヴェク・アグニホトリ監督の作品に出てみるとか(怖そー)。
ジョハル姐の伝記にもあったけど、彼らの世代はもっともっと自分を発信していかないと、ほらやっぱり親の七光りじゃんかと言われちゃう。今回の作品にはそれを払拭するような新しさは無かったし、逆効果な映画になってしまった。一方、作品の漫画的な面白さは充分にあるから、続編に期待したい。これでまたさー、パート2の主役が二世俳優だったりしたらどうなるかな…案外アルジュン・カプール来たりして。観るわ。