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竹美映画評84 スローモーションの威厳『Adipurush』(2023年、インド(ヒンディー語))

日本ではプラバースファンが毎日息も絶え絶えのようなツイートをしており、インドでは賛否両論(半分はいつもの難癖)だった、プラバース主演『Adipurush』が公開された。彼氏もとても期待していたので観て来た。

お話は、インドの神話ラーマーヤナの翻案。ラーマの妻シータがラヴァナに誘拐されたので、弟や途中で仲間になったハヌマーンやクマや大猿と共に攻め込んでいく物語を元にしている(らしい)。

字幕と事前説明無しで観たため、「なぜ主役をラーマじゃなくてラガヴと別の名前で呼んでいるのだろう…」「ジャーンキってどういう意味?」「ランケシュって誰?」「バジュランギ…あ、これはハヌマーンの別名だったような??」と疑問でいっぱいだった。が、本作は、正真正銘、翻案なのね。名前からして変えてあるんだなってやっとWikipediaを見て分かった(今更!)。映画の冒頭で、体感15分で免責事項が読み上げられてて寝そうになったが、本作がその位扱いづらいものであることも察知。

この2年程、ツイッターでインド映画に関するトピックを読んで来たが、私は他の人に比べインドに関する知識が圧倒的に少ない(体験から頭の中のインド社会像を書き換えはするものの、自分と関係ないものに興味ないのwインド人のこと悪く言えないよアンタ)。ラーマーヤナについては中田敦彦の動画の解説を前に視聴していた(彼氏曰く、よくまとまっていたとのこと)。中田さんは「スーパーマリオもここから来てるんですね」「桃太郎と似てませんか?日本にもインドのものは入って来てるんです」と言っていたが、真偽はともかく頭には入った。尚、彼が取り上げる位、今日本ではインドに対する関心が高いんだなというのは感じられた。

本作に関する原作との違いなどの詳細分析は他の方にお願いしたい。何をどう現代的にしたのか、また、公開後に起こるであろう批判的な意見の意味とか、色々と議論のし甲斐があるのだと思う。

出会いもスローモーション…プラバースの神々しさ

一応今回は、日本のインド映画ファンの皆様への恩返し(わたくしは…あのときお声がけいただいた鶴でございます…)という意味がある投稿なので、プラバースを誉めておくよ!!

この方、神様の気が入った人の役が似合うね!!故にスローモーションが多用されていた。体感としては50%スローモーション。彼はそれが似合う。周囲のキャストたちも素晴らしいんだけど、この人の前には、弟(サニー・シン)はいかにも頼りなく、哀し気で、まさにルイージポジションだった(中田さんの動画のせいよw)。

ダンスシーンはありませんッ!プラバース自体がすばしこい動きが得意でなさそう…かは分からないけど、彼がすばしこかったらコメディになっちゃうと思う。彼は笑顔は村上里佳子や池畑慎之介(シェフのRanveer Brarがそっくりで気になる)と同じクシャ顔。個人的には彼が妙なポーズでボケまくるコメディを見たい

ちなみにヒンディー語版を観たんだけど、自分でヒンディー語で話していたのかな。こんな声だったかな?と思ったりして。

『バーフバリ』ファンは、彼にアマレンドラを重ねるだろう。前にどこかで読んだし知られていることだと思うが、バーフバリの中にラーマーヤナの要素がいくつも入っているので、ああなるほど、確かに、このシーンはバーフバリにあったなあとか、このポーズ、同じだなあとか、原作⇔本作⇔バーフバリを行ったり来たりするのも楽しいでしょう。最後の方で空飛ぶ鶴の船も出て来る。Ore Ore Raju思い出さずにはいられないわ!!!

まあ、私はこの体たらくでうっすらとしか察知できない。が、インドの観客は全部知ってるわけだから、見方はもっとシビアになるでしょうね。

サイフ・アリ・カーンのアニメ化は大正解

https://en.wikipedia.org/wiki/Saif_Ali_Khan

『インド・オブ・ザ・デッド』が初見だったが、彼ってなんかこう、90年代アニメ向きの顔しているので気になっていた。

いつかダ・サイダーをやって欲しかったの。年齢的に行き過ぎたサイフは、結局本作でゴブーリキとかドン・ハルマゲ枠にすっ飛んでしまったが、「サイフ・アリ・カーンにアニメの悪役顔をやってほしい」という私の特殊な欲求には1000%応えた作品だった。

サイフ・アリ・カーンはハンサムなんだけどちょっとひょうきんなのね。神様に祈り過ぎて雪山で神と話し(半裸で胸がでかすぎ…)、神通力を持ってしまったハンサムおやじ(王なんだっけ?)。彼は顔が軽いから、こんな大事な物語の悪役ならば彼じゃなくてもいいのではとも思うが、彼がやるから面白いのだ。予告編では批判された、顔が10個に増えるところ、毎回笑ったわー。…彼の顔って決定的に怖くない

自分の祈りの部屋に籠っているなと思ったら、突然ロックスターのようにギターを弾き歌い始める!!悪役はロックスター!『ラビリンス 魔王の迷宮』のデヴィッド・ボウイ様へのオマージュですか(絶対違う)。巨大な部屋には自分を模したぜっかい彫像が何体もあるんだけどさ(それもだいぶ可笑しいんだけど)、彼本体が歌い始めたら、彫像がコーラスし始めるの!!!これは原作にあるのかな??歌の歌詞が聞き取れずもったいないのだが、シリアスな内容だったと思うぞ。

上記、音源だけですが…

彼は後でも、とんでもないもので「疲れたんで全身マッサージ in 半裸」してたり、10分裂した自分の顔と会議をしたり、ラガヴを陥れてひとしきり大笑いしたり、巨大化したり(『リトルマーメイド』のアースラと対決して欲しかった!気が合いそうw)、巨大なペットに肉与えてたり…当人はもしかしたら不本意かもしれないが、是非今後もこの路線、モブにぎりぎり埋もれない、あんまり怖くない悪役で笑わせていただきたい。

半分CG化≒ロード・オブ・ザ・リング感

CG化して正解だったのは、他にもハヌマーンに該当するバジュランギもかもしれない。彼はいつも顔がほっぺた膨らませたまんまみたいな顔をしているのがちょっと滑稽。大活躍なさるんだけど。他にも熊さんや大猿さん小猿さんが大勢出て来るため、本作はCG化は避けられなかったんじゃないかとも思う。風景だってインド人の頭の中のヒマラヤ山脈やポーク海峡なわけでね。

映画としては安心設計のロード・オブ・ザ・リングっていう感じだった。他方ランケシュのお城の防御や攻撃方法はちょっと面白かった。そんな防御あるかよってwインターネットでプレイするゲームに一番似ているんじゃないかなとは思った。

全体としては飽きることなく楽しく観ることができた(私は)。

さて本国では、恒例の公開前ボイコット祭りが開催されたし、予告編は一般観客にも不評だった。

ところで、ボイコットの理由は相変わらず「宗教的に傷ついた」というものだった。公開前の(!)映画に関してそういう被害届を出す人(≒男性)自体が、心が傷つくってどういうことなのか本当に分かってるのかな?という感じがするのが非常に印象的だ。でも傷ついたと言えば傷ついた方が正義なんだろう。インドのこういう状況は、先進国におけるポリコレ運動の転倒した醜悪なパロディに読めてしまう。

昨日劇場に行ったかぎりでは、10代~20代前半くらいの若い男性たちが大挙して観に来ていたし、どうやら興行的には成功しそう。よかったね。プラバースのスローモーション勝ちだ!!!!とは言え、プラバースは、もうちょっと人間っぽい役で別の魅力が出て来るんじゃないかとも思う。ちょっと時間がかかるのであろう。

本作、批評的には酷評に近いようだけど、音楽とスローモーションで別世界に連れて行ってもらえるので、私は楽しかった。

アマゾンとNetflixが既に買ってるみたいだけど、日本でも劇場公開されるといいなと思います。音楽はとにかく印象に残る。

ジャイシュリ―ラーム!!!

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