たぬきにはじまってたぬきにおわる。
夢を見ていたせいで、自分がわからなくなることがある。
こないだ目覚めた時に、大学の講義に間に合わない事を悟りひどく絶望した。
友達に代返を頼もうか、それっぽい虚言を添えて遅刻しようか、挙句の果てには、どこかの何かのダイヤが遅延していないか闇雲に調べようともした。自分は自転車通学なのに。
と、いうところでようやく気がつく。大学なんて既に5、6年前に卒業してんじゃん、と。
思わず「よかった……」と声が漏れる。
(べつに何にもよくない)
また別の日には、目覚めた瞬間にたちまち幸福感がわいてきて、今日は休日であることを思い出す。二度寝する前にいまの時間を確かめようとスマホを見た瞬間、アラームが鳴った。普通は休日にはアラームなんてセットしない。普通は。
休みは明日だった。明日の朝の自分が、今日の朝の自分を押しのけ我先へとやってきたのだった。危うく寝坊するところだった。
思わず「よかった……」と声が漏れる。
(これは本当によかった)
わけのわからん夢を見て、目覚めたその瞬間内容を突発的にメモに書き留めたことが最近あった。
そのメモの存在すらさっきまで忘れていたが、いろんなデータに埋もれながらもなんとか残っていた。
読み返すことで、夢の内容を鮮明に思い出すことがこのメモを書いた目的だったが、なるほど、ぜんぜんわからん。
そこから断片的に思い出したことといえば、確かにあのとき映画館で007らしきアクション映画を見ていたということと、007のテーマを耳にしたということ。上映後拍手喝采な観客達の中、ジェームズボンドが出てこなかった事に気づいていたのは僕とFさんだったという事。それくらい。
メモにある敬礼って何。
"たぬきにはじまって~"の一文とかさっっぱりわからん。
夢は書き残そうとしても、所詮夢でおわってしまうのである。
そしてその真相は、一度再生が終わったら一生蘇ることはない。
たぶん。
この前地元に帰った時、できたての中古レコードショップの一角で、若い女の子がレコードを擦りながら、この曲をフロア全体に響かせていた。
今でもよく、ふと脈絡もなく思い出しては、すぐに忘れてしまう。
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