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すらすら読める人事小説:部下を持つ11

「今日の面接官はたしか横浜支社長と私だよね?二人で20名を見ろと。」
「はい、横浜支社長と山田課長は同席いただいて、10名の学生を同時に面接してください」
「10名同時?」
しまった。すでに決まっていた面接とは言え、せめて数日前に段取りを確認していれば軌道修正ができたかもしれない。この面接会は、上司が不在の間に、東口が独断で設定したものだ。東口にとっては、大学からのクレームが来ていることに嫌気がさして仕方なく設定した面接会だ。山田は、面接会の本来の目的をしっかりと定めることができないメンバーによって組まれたものだということを想定できなかった自分を責めた。
「面接官二人で10名の学生の何を見ろというんだ」
積まれた仕事の向こう側が見えないうちは、ただひたすら、目の前の仕事を処理することが自分に与えられた役割だと誤解する。たとえ自分の行為が誤っていようが、想定していない結果に向かって突っ走っていることに気づかない。それが若手の若手たる所以である。ただし若手だから仕方ない、経験すればわかる、と片付けていては本書の価値はない。常に自分が部下のそばにいられるわけではない。見えない向こう側を想像し行動させる。そのためには、うまい具合に部下に権限委譲し、チームとしてのパフォーマンス向上を狙う。これは本書の大切なテーマの1つである。

立川産業の面接会場には予定通り10名の学生が集まってきた。どの学生もまじめに就職活動をしていそうな学生ばかりだった。逆に言うと、黙っていれば皆同じに見える。油断すると就活疲れが顔を出しそうな学生、きょろきょろと周囲を観察している学生、どう見てもスーツのサイズが合っていない学生など、イケてる層は少ないというのが山田の第一印象だった。
「見たところ2名、いや3名くらいが合格か。」
不十分な準備と雑な段取り、ゴールへのルートが見えない面接は、面接官の無用な直観力を働かせてしまう。山田は、面接をする前から先入観を持たざるを得ない雑な段取りに嫌気がさした。

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