鹿島の攻撃の変化 ~ハーフスペースとポジショナルプレー~
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中断明けから鹿島の攻撃が変わった。中断前のリーグ戦では14試合で12ゴールだったのが、中断明けからは6試合で14ゴールと、1試合平均で見れば倍以上の結果を残している。ペドロ・ジュニオールと金崎夢生が抜け、新加入のセルジーニョの出場もまだ、だと言うにも関わらずだ。
変わったのには当然理由がある。もちろん、報道にもある通り黒崎コーチが中断期間に加入したことは大きかったし、静岡キャンプで見直しが出来たのもあるだろう。しかし、個人的には最大の理由はこれなのではないかと思っている。
ポジショナルプレーを身につけ、再現性を持ってハーフスペースを使えるようになったから
ただ、これだけでは何のことを言っているかさっぱり、という人もいらっしゃるだろう。そこで、今回は「ハーフスペース」と「ポジショナルプレー」、この2つのキーワードを軸に鹿島の攻撃の変化を解説していきたい。
ハーフスペース
サッカーのプレーエリアを縦視点から分割すると、図1のように中央とサイドに分類されるのはお分かりいただけるだろうか。これを鹿島の伝統的な布陣である4-4-2に当てはめて分割すると図2のようになる。こう見ると、中央とサイドという、それぞれのレーンに選手がバランスよく配置されているのがよく分かる。この状態を基本として、ゴールを守り、相手ゴールに迫る訳だが、そこには当然相手が存在する。
ゴールが中央にあることを考えれば、中央から攻められれば手っ取り早いのだが、相手もそんな危険な場所をみすみす明け渡すわけもなく、守備の強度も厳しい。一方で、サイドになると守備の強度も弱まるが、当然中央にあるゴールから遠ざかってしまい、それだけゴールに迫れる可能性も低くなってしまう。そこで新たに分割されて生まれたのが、ハーフスペースだ。
ハーフスペースは中央とサイドの中間付近、ちょうどペナルティエリアの角のあたりを中心として分割されたスペースのことを指す。このスペースなら、中央ほど守備の強度は高くない、かつサイドよりもゴールに近いというメリットがある。
さらに、図3を見てほしい。この位置で選手がボールを受けることは他にもメリットがある。ハーフスペースは図2のようにバランスよく配置された布陣のちょうど中間あたりにある。この位置、放っておけばすぐ隣は中央になってしまうだけに、ゴールに迫る可能性は高くなってしまう。誰かがプレッシャーに行かなければならないのだが、同時にこの位置なら誰でもプレッシャーに行ける位置でもある。
しかし、守備陣にはある迷いが生まれる。それは、「誰がプレッシャーに行くのか」ということだ。この迷いによって作られる時間こそが、攻撃側にとってはゴールに迫れる時間を生み出せる大きな利益になるのだ。
このようにピッチを縦視点で5分割して考えることを「5レーン理論」、そしてサイドと中央の間に位置するスペースを「ハーフスペース」と呼んでいる。このハーフスペースが現代サッカーで、攻撃時に極めてメリットが大きく、重要視されている場所であることを踏まえて、ポジショナルプレーの解説に移りたい。
ポジショナルプレー
ポジショナルプレーというのは「優位な状況でボールを受けられるプレー」のことだ。サッカーにおいて優位な状況は、当然ゴールにより近い位置において、ゴールの方向を向き、相手がいない状況で、ボールを受けられることだろう。この状況を継続して作り出すために、ポジショナルプレーは大きな意味を持ってくるのだ。
ポジショナルプレーの原則① 「数的優位」
ポジショナルプレーには3つの原則が存在する。まず挙げられるのが「数的優位」だ。これは読んで字の如くである。相手より多い人数で攻めることが出来れば、当然人数の多いほうが優位となる。戦いの王道だ。
実は、中断前の鹿島もこの原則は出来ていたのだ。にも関らず、結果は出なかった。なぜなら、数的優位が3つの原則の中では優先順位が一番低い、つまりこれよりももっと重要な原則があと2つあるということだ。
ポジショナルプレーの原則② 「位置的優位」
次に説明するのがポジショナルプレーで最も重要な「位置的優位」だ。相手の弱点を突ける場所にいるかどうか、この部分を中断期間で鹿島は重点的に落とし込んできた。
図4がポジショナルプレーにおける位置的優位の良い例だ。列ごと、レーンごとに攻撃側(赤)の選手たちがバランスよく配置されている。サッカーではパスコースを複数作るために三角形を作る動きが重要視されているが、この場合、三角形は2つできあがり、菱形が形成されている。この菱形が大きな意味を持ってくるのだ。
例えば、一番後ろの攻撃側の選手がボールを持っていたとしよう。この場合、一番良いのは同じハーフスペースにいる前の選手に縦パスを通すことだが、そこは相手に封じられている。しかし、その封じられた選手がいることによって、斜めの2人の選手へのパスコースが生まれている。この2人にパスを通すことが出来れば、ゴールに近づくことが出来る。パスが通れば、また菱形を作り直して、ボールを前進させていく。この流れを、動き出しを止めずに繰り返すことによってゴールに迫っていく、これがポジショナルプレーの位置的優位に基づく、「再現性のあるボールの運び方」であり、攻撃の方法だ。
反例も見ておこう。中断前の鹿島がよく陥ってしまっていたケースだ。図5を見ると、後ろの赤い攻撃側の選手には先程と同様に、白い矢印で描いたパスコースが2つ存在している。ただ、どうだろう。同じレーンに角度もつけずに選手が並んでいるために、これではパスを通しても赤い矢印で描いたように相手選手があまりにもプレッシャーに行きやすい状況になってしまっている。
仮に縦パスが通って、相手SBの裏のスペースが空いたとしても、そこを使えるのは、ペナルティエリアの中で仕事をしたいFWの選手か、パスの出し手が窮屈な思いをして同じレーンで追い越さなければならない。FWの選手が流れてしまえば、そこからの選択肢はほぼクロスに限られ、中に待っているFWの選手も1人だけという、ゴールを期待するにはあまり難しい状況になってしまうのだ。
ポジショナルプレーによる位置的優位でハーフスペースを上手く活用して生まれたゴールを2つ載せておくので、参考になればと思う。
ポジショナルプレーの原則③ 「質的優位」
ポジショナルプレーの原則の3つ目は「質的優位」。2番目に重要なこの原則は、相手より勝っている部分を活かして攻めることである。足の速さだったり、ドリブルの上手さだったり、空中戦の強さと言えば分かりやすいかもしれない。
実は、鹿島に一番欠けているのはこの部分だ。ポジショナルプレーでいくらゴールに迫っても、最後にゴールが決まるか否かは、どうしてもシュートを打つ選手の個々の力にかかる部分が大きくなってしまうのがサッカーである。
もちろん、鹿島にも質的優位に立てる選手はいる。安部や土居、安西のドリブルだったり、鈴木のヘディングは相手にとっては大きな脅威となっている。ただ、連戦でパフォーマンスが落ちてその優位性が保てなくなってきたこと、さらに金崎の移籍によってクロスに合わせるターゲットで質的優位に立てるのが現在の出場選手では鈴木しかいなくなってしまったことが、チームにとっては大きな痛手となっている。ここ最近出場していない山本はこのターゲットとしての質的優位に立てる選手の1人であり、クロスに大外から飛び込む形はチームの得点パターンの一つだったが、彼のポジションがゴールから遠いSBということを考えれば、彼の復帰で全てが解決するとは考えないほうがいいだろう。
個人的に、ここ数試合で金森が出場機会を増やしていることはこの質的優位を保つことと関係があるのではないか、と思っている。チームのFW陣は鈴木を除けば、引いてボールを受けてから打開する選手が多く、その点において金森は身長こそ高くないものの、フィジカルはあるし、クロスにも飛び込んでいけるタイプのプレーヤーだからだ。メカニズムとしては以下のように考えられる。
連戦によって運動量が低下
↓
位置的優位が保てず、個々のサイドでの質的優位も低下
↓
鈴木がサイドに流れて、数的優位を作り出す
↓
人がいなくなり、中央での質的優位が低下
↓
金森起用で、中央での質的優位を補完
まとめ
いかがだっただろうか。鹿島がポジショナルプレーを取り入れたことにより、選手たちには状況に合わせて正しいポジショニングを取り続ける判断力とその下地となる体力がより求められるようになった。この2つを求められるレベルに達した選手だけが、ピッチに立つようになっていくだろう。ただ、これによって、一つのプレー原則が生まれたのは間違いない。プレー原則が生まれれば、それが出来たか出来なかったかで、内容の善し悪しが判断できるし、結果にも影響してくるようになる。
ただ、まだチームはプレー原則を一つ身につけたに過ぎない。攻撃面でも課題は他にもあるし、守備面でも向き合わなければならない課題は多い。これから先、身につけるプレー原則を増やしていかない限り、安定した結果を望むことは難しいだろう。
最後に、参考文献とさせていただいたリンクを貼って締めとしたい。長文読んでいただき、ありがとうございました。
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