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「たら」「れば」は「たら」で統一

「もっと早く起きればよかった」と「もっと早く起きたらよかった」。あなたは、どちらの表現に違和感を持つのだろうか。ある調査によると、東京の若者の90%以上が「起きれば」を支持したという。では「もし、火事になれば」と「もし、火事になったら」の場合は、どうだろか。こちらでは全員が「なったら」を選んだ。しかし大阪の若者は、どちらも圧倒的に「たら」を選択したという。
 条件の仮定表現である「たら」と「れば」の区別は難しい。一般的には、「たら」は動作や出来事が順番に起こる際に使われ、「れば」は期待が込められているという。つまり、「タクシーに乗ったら早くつく」は「この場所からタクシーに乗る→歩くよりも早く到着する」という「乗る」と「到着」の時系列を示し、「タクシーに乗れば早くつく」は「今の状況なら、タクシーに乗れば電車よりも早くつくかもしれない」という期待が込められているのだ。
 しかし関西人は、もっぱら「たら」である。「歩くよりタクシーにのったら早よつくで」という確実性のある意味も、「タクシーに乗ったら、なんぼか早よつくんちゃうん」という不確実な期待の意味も同じだ。なお、この場合の「なんぼ」は「おっちゃん、これなんぼ?」という価格ではなく、「幾分」「多少」という量を示す。
 このように、肯定表現の「たら」は単純明瞭だ。しかし、否定形となるとバリエーションが豊富になる。「食べなかったら」の同義語は「食べへんかったら」「食べんかったら」「食べなんだら」「食べへんなんだら」などがあり、地域や年代などで使い分けられている。また状況によっても分けられ、「食べへんかったら」よりも「食べんかったら」のほうが否定の意味が強く、「食べへんかったら」は「野菜、食べへんかったらアカンよ」と軽い忠告となるが、「野菜、食べんかったら、えらいことになるで!」と叱責や命令の表現になることが多い。
 標準語には「たら・れば」のほかに、「タクシーに乗るのなら早くつく」の「なら」、「タクシーに乗ると早くつく」の「と」という表現もある。この場合も、関西ではすべて「たら」。条件表現は、関西よりも関東のほうが細かいのだ。

 「関西人VS関東人 ここまで違う言葉の常識」(河出書房新社)より
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