見出し画像

定時先生!第28話 分担

本編目次

第1話 ブラックなんでしょ

 教室の机が教卓側に寄せられている。間もなく清掃開始の号令がかかる。教室後方の広く空いたスペースの壁沿いに、詰めて生徒が並んでいる。とはいえ、整然としている訳ではない。一日の授業を終え、生徒も疲れが溜まっている。所々で私語もあり、落ち着きがない。

「今日は、掃除の前に、改めて分担を決めます。全員その場に座る」

 いつもと違う流れに、生徒らは顔を見合わせ、騒めいた。構わず、遠藤は続ける。

「今までは、例えばほうき担当6人について、細かく仕事を分けてはいませんでした。これからは、教室を窓側・中央・廊下側の3つに分け、それぞれの場所で、はき2人ずつで分担してもらいます。モップ6人も同じ分け方です。黒板担当2人は、右半分と左半分に分けます。またー」

 新しく始まる何かを理解しようと、生徒は顔を上げ話を聴いている。
 分担を決め終わると、掃除の時間は半分ほどしか残されていなかった。遠藤は、今日の清掃は時間内にできるところまでで良いこととし、決めた分担通りに教室清掃を開始させた。
 始めは新しい分担に戸惑っていた生徒達であったが、それでも、明らかに普段より清掃に取り組んでいる。
 女子生徒が遠藤に話しかけてきた。

「先生、あの二人がちゃんと掃除してくれません」

 見ると、先日モップの件で指導された男子二人がおしゃべりに興じている。モップ担当から外され、一人はほうき、一人は黒板担当だ。
 いつものように強い口調で注意したくなる気持ちをぐっと堪える遠藤に、先日の図書室での中島とのやりとりが浮かぶ。


「それで、母親はモップの弁償の心配ばかりしてるんですよ。いくらですか、って。それよりもまず、息子の行いに対する謝罪があるべきだと思うんですよ」
「まあ、確かにそこも気になるけど、そもそもさ、生徒の掃除への取り組みっていつもそんな感じなの?」
「そうです…。いつもダラダラやってるんで注意ばっかしてます。勿論、僕の指導不足なんですけど…。市川先生みたいな方だったら、もっとピリッとさせられるんでしょうけどね」
「それ、システムが悪いってことはない?」
「システム?清掃活動のですか?職員会議で美化担当から提案されてた通りやってると思うんですけど…」
「あの提案、去年の始めといっしょなんだよ。その時と違って、今はトイレ掃除が無くなってるでしょ。それが影響していてね…」

 中島によると、コロナによるトイレ清掃廃止により浮いた一班分の生徒が教室清掃に回されているため、狭い教室及び廊下に3班合計18人の生徒がひしめき、清掃場所に対し生徒数が飽和状態となっているという。そのため、提案通りの清掃活動では、一人あたりの作業量が減り、手持ち無沙汰から遊んでしまう生徒が現れるのは、半ば必然であるとのことだった。
 中島から遠藤に、教室清掃18人分細かく分担を割り振る方法が教えられた。