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定時先生!第48話 仕事ぶり

 問題行動は指導のチャンス。
 いつの日かの初任者研修で言われた言葉だ。右も左もわからぬまま職員室に放り込まれ、何も無くとも多忙な初任者に鞭打つかのように、あまりに多くの初任者研修が組まれたせいか、その内容の多くは覚えていない。しかし、この言葉は印象に残っている。
 当時の中島は、授業中の生徒の私語に対してすら、気が滅入るような思いでいた。簡単には生徒が従わないことはわかっており、放っておければ幾らか楽だが、指導しなくては真面目な生徒にどう思われるか。一瞬の逡巡の末、一応は注意するのだが、予見どおり、生徒にはあしらわれてしまうのだった。
 しかし、2年目の中島は、N中の他の多くの教員がそうであるように、指導の際に何かにつけ声を荒げるようになっていた。こうした指導の結果、授業でも部活でも、生徒に緊張感を与えられていることがわかってからは、生徒の問題行動を見かけても、むしろ指導のチャンスと思えるようになっていた。また、1年目に生徒と友達のような関係になってしまった反省から、生徒とは親しくし過ぎないよう努めていた。
 夏季休業が過ぎた。懸念されていた時間経過による緩みも、許容範囲内だった。この頃になると、生徒はどの程度のことをすれば中島に叱られるのかを把握し、この一線を越えないように行動していた。クラスの生徒は学級の規律が中島によって保たれていることを理解し、また、中島を慕ってもいた。とはいえ、時折一線を越えてしまうのが子どもである。その都度、中島が雷を落とすことで、クラスの緊張感は程よく維持され一年間が過ぎ、中島の3学年担任持ち上がりが決まった。
 初担任ながら無事にクラスを進級させた中島の教師としての仕事ぶりは、同僚の教員からも評価されていた。

「中島学級で怒鳴り声が聞こえてきたからさ、負けてられねえって思ってさ。うちのクラスでもいつも以上に叱っちゃったよ」 
「すいません、うるさくしちゃって」
「いや、良いことだよ。ピシッと叱れることは。中島先生、落ち着いたクラスにできてるよね。初担任なのにすごいよね」
「2年目で初担任だったからですよ。1年目から担任だったら、こうはならなかったと思います」
「まあ、それはそうかもしれないけどさ、部活指導もしっかりできてるじゃん。2年目でなかなかできないよ。3年に上がっても仕事頑張らないとね。パパになったわけだし」