定時先生!第16話 疑問の核心
本編目次
第1話 ブラックなんでしょ
「最たる例は部活動だね。始まった時はベストな仕組みだったんだろうけど、今は『ブラック』なんて冠がつくこともある」
瞬間、遠藤は職員トイレでの北沢との会話を思いだした。中島が顧問を務めるバドミントン部の話題だ。
ーえ、週2?ー
ーそう。朝練1回、放課後練1回。放課後はうちのバスケ部と体育館半面ずつで一緒になるけど、17時過ぎには解散させて、中島先生もそのまま帰ってるみたいだねー
遠藤は希望していないソフトテニス部の顧問をもたされ、部活動が業務を圧迫していることを強く自覚している。しかし一方で、自身が学生時代部活動に打ち込み優秀な成績を収めた経験から、部活動で得られる価値もまた、知っている。家庭学習も部活動も生徒のためだ。変化などと最もらしいことを言うが、生徒を放置して定時退勤はいかがなものか。そうだ。これが疑問の核心だ。遠藤は信号待ちの先行車の車列を眺めたまま、中島に問うた。
「たしか先生のバド部は活動が週2だけですよね。それに、変化しなければいけない理由に教員の負担を挙げられてましたがー」
ーこんなにも利己的なあなたがー
「ーどうして発表者を引き受けたんですか」
「教師のバトン だよ」
「え」
即答だった。そして、予想外だった。ハンドルを握る中島は、前方に視線を向けたまま続けた。
「若い先生にバトンを渡すためだよ。遠藤先生は #教師のバトン って知ってる?」
「…知ってます」
「俺さ、このままだと、学校教育に未来はないって本気で思ってるんだよね。ここ数年、先生の仕事はブラックだってすごく言われるようになった。遠藤先生も毎日忙しいでしょ」
「ええ、とても…」
「そんな世界に飛び込んでくれた若い先生たちをほんとに尊敬してるし、感謝してる。だから、俺が発表者を引き受けて、未来の学校の中心になる遠藤先生たちの参考になれば良いと思った。確かに発表者を引き受けることは大変だよ。でも、発表者への立候補と負担軽減を目指す姿勢とは、俺の中で矛盾してないんだ」
「なぜですか…?」
「どちらも未来の学校や生徒のためで、俺なりの#教師のバトン だからね」
思わず中島を見た。
「さっき、学校は変化が苦手って言ったけど、それは例えば、昔荒れた学校は校則を変えられないみたいに、過去をデータに今を重視してるからなんだ。そのあまり、未来の生徒や先生のためにどうすべきかっていう視点が欠けてる。だから部活だって柔軟に変化させないと、負担で何かが潰れてしまう」
遠藤は、ハンドルを握る中島の眼の奥に一瞬、憂いを見た気がした。
「しかし、いくら負担でも、目の前の生徒を考えると…」
「そう。目の前の、つまり今の生徒を重視して勤務時間度外視で働いてしまうのが学校なんだ。でも、教員に負担が積み重なって心身に影響でもあれば、その先生はもちろん、未来の生徒にも不利益だよ。先生が若ければ若いほど、未来の生徒がたくさんいるんだから」
「…未来の生徒…」
「そのとき、俺みたいな定時の働き方が参考になるかもしれない」