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定時先生!第1話 ブラックなんでしょ

本編目次

 便座に座ると、鋭い冷たさが背中まで伝った。5月も下旬だが、ここのところの長雨で、昼でも冷え込む。かがんだちょうど目線の高さに、ポスターが貼られている。

 ~こどもたちのために! K市立学校 力を合わせて不祥事根絶~

 遠藤は、着任後幾度と眺めたそのポスターをじっと見つめた。読むというより、字を順に見ているだけだ。



 遠藤は4月に着任した、採用1年目のいわゆる初任者だ。幼いころから、教師になりたかった。行事に部活に充実した学生時代だった。教師になり、子どもたちの成長に関わりたい。自然とそう思った。自らも学校に成長させてもらったのだから。
 大学の授業では、仕事としての教師はたしかにブラックな一面もあるが、それ以上に魅力的であると教わった。しかし、遠藤はそれを盲信してはいなかった。
 教員の長時間労働は、教職課程を履修していれば自然と伝わってくる。いや、今や教職と関係ない人も含め、社会に広く知られたと言って良い。離れて暮らす両親や親戚と連絡をとれば、必ず教師を志す自分を案じてくる。教育実習では、中学生にさえ、先生ってブラックなんでしょ、と言われてしまった。
 それでも遠藤は教師を目指した。それは、自身の経験に基づく熱意によるところも大きいが、本音を言えば、先が見えないコロナの時代に、公務員であれば安泰だろう、とも思っていた。
 合格できたときは、嬉しかった。夢が叶った。これから教師として、子どもたちの成長に携わるんだ。自身が成長させてもらえたように。周囲に祝福されながら、遠藤は胸の中で初心がたぎるのを感じた。だが、誰もが最後にかけるその言葉は、まるで冷たい水滴のように、彼の熱くなった初心にしたたるのだった。

 ー先生ってブラックなんでしょ?