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3-2.タンパク質の形を見よう(計算構造生物学研究チーム):理化学研究所 神戸地区 一般公開2023 R-CCS わくわく「富岳」 その03

2023年11月03日、私は理化学研究所 神戸地区(以下神戸地区) 計算科学研究センター(RIKEN Center for Computational Science:R-CCS)を訪れ、一般客として理化学研究所 神戸地区 一般公開2023 わくわく「富岳」(以下「わくわく富岳」,[1],[2])に参加した。なお、神戸地区 一般公開は、神戸医療産業都市 一般公開2023の一環でもある([3])。


タンパク質やRNAからなる生体分子複合体は遺伝情報の制御やタンパク質の合成、細胞内輸送などの生命活動に重要な役割を果たしており、それらの異常は様々な疾患を引き起こす。それらの機能を理解して治療につながる薬剤の開発につなげる為には、分子の構造と運動の情報を得ることが重要になる。しかし、これらの複合体は大きいため、幅広く使われている結晶構造解析法を使うことは難しい状況である。そこで、低温電子顕微鏡法やX線小角散乱などの手法が有効になってきている。また、新しい技術であるX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser:XFEL)を構造解析に使う研究も進んでいる。しかし、これらの手法は原子レベルの情報を得ることはできないため、様々な計算機的手法と実験データを組み合わせた、原子モデルを構築する為のアルゴリズムが必要になってきている。

計算構造生物学研究チーム(以下同チーム,[4],[5])は、「京」や「富岳」などの高性能計算機を利用して実験データから生体分子構造のモデル構築する手法の開発と創薬への応用を目指している。

同チームはXFEL回折データから3次元構造を再構成している(図03.01,図03.02,5)。

図03.01.向かって左から、ポスター「計算構造生物学研究チーム」と「X線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser:XFEL)による構造解析。
図03.02.向かって左から、ポスター「計算機を用いたX線回折画像解析」と「時分割シリアルフェムト秒結晶構造解析(Time-Resolved Serial Femtosecond X-ray crystallography:TR-SFX)によるタンパク質のダイナミクスの観察」。


「3-2.タンパク質の形を見よう(計算構造生物学研究チーム)」で、同チームはジカウイルスのペーパー モデルと模型を展示した(図03.03,図03.04,図03.05,[6])。

図03.03.「ジカウイルスのペーパーモデルを作ろう」。
図03.04.ジカウイルスの模型(上)とペーパーモデル完成品(下)。
図03.05.向かって左から、赤と青:ヒト リボソーム 、ならびに、緑:ジカウイルス タンパク質。


同チームはヒト リボソーム模型を展示した(図03.05,図03.06,[7])。

図03.06.ヒト リボソーム模型。


そして、DNAのペーパー モデルを展示した(図03.07,[8])。

図03.07.「DNAの紙モデルの作り方」とDNAのペーパー モデル。


なお、同チームによる以下の研究を紹介する。

1.2022年07月15日、同チームの中野美紀研究員、宮下治上級研究員、タマ・フロハンス チームリーダー、北海道大学電子科学研究所の西野吉則教授、鈴木明大准教授、および、高輝度光科学研究センターの城地保昌主幹研究員(理研放射光科学研究センタービームライン制御解析チームチームリーダー)らの共同研究グループは、XFELによる溶液中の微小試料の3次元観察の実証を目指し、約50nmサイズの金ナノ粒子の構造解析に取り組んだことを発表した。金ナノ粒子は、生体内に近い環境の再現を目指して独自開発した試料ホルダー(MLEA)を用いて、常温常圧の溶液中に保持した。金ナノ粒子にXFELビームを照射し得られた2次元パターンから、試料にビームが当たったパターンの選別、3次元強度分布の推定、試料以外からのノイズの除去といった一連のデータ処理により、金ナノ粒子の3次元構造を復元することに成功した。この理論・実験の両面からの成果は、XFELによる溶液中の微小試料の3次元分析につながり、自然な環境での生体分子の3次元観察のための重要な基礎データを提供する([9])。 

2.2024年02月29日、名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所(WPI-ITbM)の多喜 正泰 特任准教授、山口 茂弘 教授、フロハンス タマ(Florence Tama)教授(同チーム チームリーダー)、および、東京大学大学院医学系研究科・同大学院理学系研究科(兼務)の岡田 康志 教授(理化学研究所生命機能科学研究センター チームリーダー)らの研究グループは、高い耐光性と細胞膜透過性を兼ね備えたライブセル イメージング用近赤外蛍光標識剤の開発に成功したことを発表した。

本研究では、光に対する安定性に優れた近赤外蛍光標識剤を開発し、細胞膜透過性を評価した。その結果、化合物の三次元的な構造である立体化学が細胞膜透過性に大きな影響を与えることを発見した。膜透過性を有する近赤外蛍光標識剤を用いることで、蛍光イメージングによる任意のオルガネラの特異的標識を達成した。また、超解像5次元イメージング(3D+時間+波長)により、オルガネラ同士の相互作用を追跡することにも成功した([10])。

 

「3-2.タンパク質の形を見よう(計算構造生物学研究チーム)」で、タンパク質やDNAの基礎を改めて学ぶことができた。同チームには非常に感謝している。


参考文献

[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“理化学研究所 一般公開 in 神戸 2023 ホームページ”.https://www.kobe.riken.jp/event/openhouse/23/#outline,(参照2024年02月28日).

[2] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“わくわく「富岳」 南エリア”.理化学研究所 一般公開 in 神戸 ホームページ.R-CCS わくわく「富岳」.https://www.kobe.riken.jp/event/openhouse/23/ccs_ja.html,(参照2024年02月28日).

[3] 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構.“神戸医療産業都市(KBIC) 2023 一般公開 ホームページ”.https://www.fbri-kobe.org/kbic/ippankoukai/2023/,(参照2024年02月28日).

[4] 国立研究開発法人 理化学研究所.“計算構造生物学研究チーム”.理化学研究所 ホームページ.研究室紹介.計算科学研究センター.https://www.riken.jp/research/labs/r-ccs/comput_struct_biol/index.html,(参照2024年02月29日).

[5] 国立研究開発法人 理化学研究所 計算科学研究センター.“計算構造生物学研究チーム”.理化学研究所 計算科学研究センター トップページ.研究活動.研究チーム紹介.https://www.r-ccs.riken.jp/research/labs/csbrt/,(参照2024年02月29日).

[6] 蛋白質構造データバンク.“蚊が運ぶ・ジカウイルス”.PDBj入門 トップページ.ペーパー モデル.https://numon.pdbj.org/papermodel/?p=ZikaVirus&l=ja,(参照2024年03月01日).

[7] 蛋白質構造データバンク.“121 リボソーム Ribosome”.PDBj入門 トップページ.今月の分子. https://numon.pdbj.org/mom/121,(参照2024年03月01日).

[8] 蛋白質構造データバンク.“生き物の設計図・DNA”.PDBj入門 トップページ.ペーパー モデル.https://numon.pdbj.org/papermodel/?p=DNA&l=ja,(参照2024年03月01日).

[9] 国立研究開発法人 理化学研究所.“溶液中ナノ粒子を3次元観察できるデータ処理手法-X線レーザーを用いた生体内に近い環境での構造観察に期待-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2022.2022年07月15日.https://www.riken.jp/press/2022/20220715_2/index.html,(参照2024年03月01日).

[10] 国立大学法人 東海国立大学機構 名古屋大学.“耐光性に優れたライブセルイメージング用近赤外蛍光標識剤を開発 ~立体化学によって細胞膜透過性が異なることを発見~”.名古屋大学 研究成果発信サイト トップページ.化学.2024年02月29日.https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2024/02/post-632.html,(参照2024年03月01日).

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