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佐野元春 或る秋の日
Dear Mr.Songwriter Vol.37
1枚のアルバムというのは、言ってみれば、一編の小説や一編の映画と同じですから、コンセプトもあり、テーマもある。『或る秋の日』というのは、自分が脚本した映画とも言えるし、自分が書いた一編の小説ともいえる
STEPPIN' OUT ! December2019 VOLUME.10
![](https://assets.st-note.com/img/1728537075-TKRv9V4Gd3H8lF10pXIQfUMa.jpg?width=1200)
Produced by 佐野元春
Co-Produced 大井洋輔
Recorded & Mixed 渡辺省二郎
Mastered by Ted Jensen
Photographer 山崎二郎
今回は、2019年リリース通算18枚目のオリジナルアルバム『或る秋の日』です。
収録曲は全8曲。すでにリリースされていたコヨーテバンドのクリスマスソング「みんなの願いがかなう日まで」、35周年のテーマソング「君がいなくちゃ」3曲入EPから「或る秋の日」「私の人生」の4曲に、新たに(パーソナルな曲という表現をしていました)4曲をプラス、演奏はコヨーテバンドがしていますが、コヨーテバンド名義ではなくソロアルバムとしての位置づけという形でリリース。
ジャケットは神宮外苑の銀杏並木で、人が少ない早朝に撮影されました。
ここで撮影したファンも多かったんじゃないかな。自分も例にもれず撮影しちゃいました。人が多くて、なかなか難しかった感じでしたね。
元春がいうところの「閑話休題」な私小説的なアルバム
ロバート•デ•ニーロがギャング映画からラブロマンスの映画に出るような作品なんて例えていましたね。
レコードメーカーのキャッチコピーはこのようなものでした。
「愛も闘争もひとやすみ」
稀代のソングライターが贈る8編のラブ•ストーリー
1.私の人生 What Is Life
冒頭の残響感溢れるシゲルのドラミングから始まる「サムデイ」「月夜を往け」「虹をつかむ人」の流れをくんだ"音の壁"のようなサウンド•デザイン。
あまり聴き慣れない、〈なんていうか〉という歌い出しはできるだけユーモアにしてみたかったということです。元春の言うユーモアというのは、
決して人を貶めるような類のものではなく、今の絶望を正しく認識しながら、それでもなお未来へ向かおうとする心の働き
だといいます。
"愛ってなんていうか" のラインはこんな素敵なアイデアがあったという。
もしも小津安二郎監督の映画『東京物語』の中で、笠智衆さんが人生の晩秋にいたら、どんな台詞を言うだろうかと想像しながら書いた。
人生の厳しい局面においてもたおやかでおおらかな笠智衆さん演じる父親。そんな人生の達人の独り言を歌にしてみたかった。と語っていました。
2.君がいなくちゃ Nothing Without You
キャッチーなイントロに少し切ないリリックにポップなメロディ。
特にBメロが素晴らしく尊い!
もともとは、元春の立教高校時代、15.16歳の時に書いた楽曲。
その立教高校には寮があり、地方から学生たちが集まっていた。その彼らがこの曲のカセットテープにコピーしていたという。その誰かがテープを故郷に持ち帰り、誰が歌い、メディアが取り上げて少し話題になったという事です。
その真相は YouTubeでSong In Blue 2010と検索すると詳細がわかりますので、興味があったら見てくださいね。
3.最後の手紙 The Last Letter
エレクトリック•シタールの響きがなんとも心の琴線に触れてしまう。これはアッキーのプレイです。
シゲル、フカヌー、カーリーのコーラスも美しい。
ここにいる主人公は、何かを失い、それを全て告白するように物語は進んでいく。
それは、主人公の身勝手さも少しだけ感じてしまうけれど、ふたりにしかわからないものがあるのだろう。
4.いつもの空 I Think I'm Alright
前の「最後の手紙」曲に繋がるようなストーリーをもっている楽曲。
ジェイムス•テイラーや70年代の欧米のシンガーソングライターを思わせます。
シゲルのドラムス、カーリーのベース、元春のギターというミニマルな編成で、ソロ作品というのを強く感じますね。
平気さ 君がいなくても
元春が弾くマーティンのD-28のアコースティック•ギターのとても美しい音色がこの詩の世界と共鳴して心に響いてきます。
ギターフレーズはなんとなく、このクラシックス•フォーを感じました。
5.或る秋の日 A Long Time
Alternate Mixということで、先行リリースの3曲入りEPとは、ヴァージョンが違います。
人生においての秋を表現したという楽曲。
元春がいうところの"熟年の恋"
サザンの桑田佳祐は、本人がDJをしているFMラジオ番組でこの曲を紹介した時に、"佐野くんはエロい!"と絶賛?だったのを思い出しました。
映像や景色が見える作品を心がけたという発言もあるように、その状況がとてもよく浮かんできます。
6.新しい君へ The Gift
これもとても美しいメロディメイカー佐野元春といった趣の作品。
片寄明人との対談においてマルコス•ヴァーリのような70年代のブラジリアンミュージックの要素を取り入れていると指摘していたキーボードのプレイについて
ウーリッツァー(クレジットではフェンダー•ローズになってますね)から出るアンプの音に少しワウを噛ませて、敢えて音質を落とし、そこに少しだけトレモロをかけてあのサウンドを作った。
と、シュンちゃんと相談しながらレコーディングしたみたい。
クレジットにRain Stick 佐野元春と記載があるけど、傘??
7.永遠の迷宮 Labylinth
このアルバムの中で、バンドのアンサンブル、特にフカヌーとアッキーのギターの絡みが面白い。
バーズのようなギターリフが心地よいフォーク•ロック。
8.みんなの願いがかなう日まで Our Christmas-Happy That We're Here
「クリスマスタイム•イン•ブルー」がレゲエでこの曲も一筋縄ではいかない。
アッキーが弾くウクレレが印象的な、南の国のクリスマスといった感じでしょうか。
ここまでサバイブしてきたみんなと新しく出会ったみんな、そして、今ここにはいない大事な人、に向けての、そんなクリスマスソング。
8編の映画を見ているように、全般的に映像が見えてくるような作品集という感じでしょうか。
今作のコヨーテバンドの立ち位置については、
演奏家として何かを期待して、演奏家から何かアイデアを出してもらったというよりかは、そこは全部、元春自身がコントロールして、全てのアレンジをしたという。そこで適切な演奏をしてくれた。
佐野元春&コヨーテバンドのアルバムに於いては、それぞれのミュージシャンたちがアイデアを出してくれて、素晴らしいバンド•サウンドになっている。今回の楽曲は、むしろミュージシャンに徹してくれている。これができるということは、それぞれのメンバーの優れたところ、ということです。
すぐそばで、例えばリビングルームで歌ってくれているようなそんな感覚のアルバムだと思います。
今回はここで終わりです。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
ではまた!
参考文献
※佐野元春サウンド、その40年の変遷
※STEPPIN' OUT 2019年12月号