
佐野元春 & ザ•コヨーテバンド ENTERTAINMENT!
Dear Mr.Songwriter Vol.38
5曲の既発曲のうち2曲はアルバム用にオルタネイト•ヴァージョンを入れて、さらに5曲の新曲をプラスした。それぞれの曲を書いたのは2019年、2020年。隣接した短い期間に書いた曲ばかりなので、やはりテーマとなると、「このパンデミックに生きている僕たち」となる。だからこそ、コンセプト•アルバムとしてうまくまとまった。このアルバムを経なければ、次の新作まで歩みを進められない。なので、このアルバム『ENTERTAINMENT!』のリリースは絶対必要で、これはファンの人たちと一緒に「このパンデミックを僕たち生き残ったね、頑張ったね」と確認しつつ、「じゃあ、次に何処へ行こうか?」という問いへの答えがニュー•アルバム『今、何処』に集約されている。
STEPPIN'OUT! SUMMER 2022 VOLUME 25

ENTERTAINMENT! 2022.4.8
Produced by MOTO'JET' SANO
Recorded & Mixed Shojiro Watanabe
Mastering by Randy Merlll
今回は、コヨーテバンドとして5枚目、19枚目のオリジナルアルバム『ENTERTAINMENT!』です。
2022年の4月に配信のみのリリースでしたが、その後、『今、何処』の初回限定盤にCDとして同封されました。
コロナ前の2019年からコロナ禍のパンデミックが表明された2020年、2021年に作られた10曲が収録されています。
1曲目から5曲目までは、その中で配信シングルとしてリリースした5曲、6曲目からは新曲5曲という内容です。
今回のレコーディングの制作は、マスタリング•エンジニアがテッド•ジャンセンからレディー•ガガやケイティ•ペリー、アデルなどと仕事をしているランディ•メリルに変更になっていますね。
コヨーテバンドと一緒に写っているアルバムジャケットは、2019年10月に開催された母校である立教大学内。ホームカミング•デイでのライヴの時に撮影されたものだと思われます。
1.エンタテイメント!Entertainment!

2020.4.22
配信リリースはちょうどコロナ禍の2020年4月、その後9月には、デビュー40周年を記念したコンピレーション盤『THE ESSENTIAL TRACKS 2005-2020』に新曲として収録されました。
曲作りとレコーディングは、パンデミック以前の2020年1月に行われています。
確かにコロナ禍を予言したような内容と言われているけど、そこだけを過剰にピックアップしすぎると本質を見失いそうなので、クールにいきたいところです。
元春が弾くES335TDのギターリフで幕を明ける夢ような世界。
でも実際にここにある現実は
手のひらの中のどうしようもないつぶやき
見かけ倒しの愛と太陽
敵対しあって自分の都合で生きてる人たち
そんな世界だからこそ、奇妙なガスに満ちているこの危うげな世界には
It's Just entertainment!
なんだ、と再認識させてくれる。
落ちてゆく星を見ていた夜
このラインについてNONA REEVESの西寺郷太さんとの対談において
星が落ちる、は、スターのスキャンダルという指摘、成功した人が失敗していくさま、さっきまで褒め称えていた人たちが手のひらを返すみたいな。そこまで書かれているのが佐野さんの深さだなぁ、と
それに関して
エンタテインメントは必要不可欠なものだと前置きをしながら、光と影、功罪もあるのではないかと。光の部分から見るだけじゃなくて、影の方から見ると、「エンタテインメント全体っていうのはこういう形かな?」っていうのを表現することができる。それを3分間で小気味よくやってみたかった、と語っています。
そんなパイの層を何枚を重ねたソングライティングの妙が見えてくる。
その答えは
現実は裏表があって複雑だ。いつだって見た目とは違うから。
2.愛が分母 / Love

確か、リリース前に / このスラッシュの後に何の文字が入るか、というようなクイズをやってた記憶があります。
分母って答えがわかった時、あぁ、そうか!とはならず、わかるはずない!と思ったりしましたね。
やっぱりスカのビートは楽しい!
アイガブンボ!元春の好きな濁点の言葉。
もうこれはシンガロングしちゃうしかない!
スカパラホーンズはいつだって最高だ。
元春が作ってきたデモを膨らませるようにハーモニーを付けたり、歌の合いの手フレーズなどを追加して、スカパラの北原雅彦がアレンジをしている。
スカの音楽は〈抵抗〉の歌。差別への怒りとか抗議。この楽曲の中でも
残酷な世界 に 君ともう一度試したいんだ
というそんなアティテュードが見えてくる。
3.この道 Blue Sky -2022mix version
国内で最初の〈緊急事態宣言〉が発令される前日の4月6日にオフィシャル•サイトにアップ。
2ヶ月という期間、誰にでも使用できるパブリック•ドメインという形で公開しました。
パンデミックの中、コヨーテバンドと初めてのリモート•レコーディング。メンバーそれぞれのパートを自宅で録音して、それにホーンを追加してリリース。
希望と絶望。どちらから見ても同じ景色になるように表現してみたとのこと。
MVの中のゾーイがかわいいんだよね
このアルバムのテイクは2022年に再ミックスしたヴァージョン。
4.街空ハ高ク晴レテ City Boy Blue
Alternative Version

元々、この曲のタイトルは、読んだ事はないんだけど、DRESSという雑誌で恋愛相談に乗るみたいな企画の連載のタイトルでしたね。
もしこの曲が現代ではなく、1952年くらいに流れ、この曲をテーマソングにした日本映画があるとしたら、この送り仮名がカタカナになっていることを想定してタイトルにしたということ。
ここ最近の作品は詩が先という発言もあったように、この楽曲も、
リリックとは別にギター•リフが鳴っていた。「5月の連休に聴きたい曲を書こう」
神田生まれの僕は、街で得るものもあったし、街で失くしたものもあった。でもこの街に暮らしていて何も頼りにできないけれど、そんな中でタフにやってきたんだっていうメッセージを「City Boy Blue」という一言でカッコ付けて言えた。あの曲は楽しげに聴こえるかもしれないけれど、そういう少年たちのブルースだ。
元春の仕事場から首都高で、お台場、羽田空港に向かう風景を盛り込んだという、蒼い空が見えてくるような憂鬱なコロナ禍の中、ハッピーになれました。
バックシートの〈mojo〉は愛犬ゾーイの架空の友達のことだって。
ゾーイはなんで僕じゃないんだ!と思っているかもしれないけど、語感が合わなかったそうですね。
シュンちゃんのウーリッツァーと元春が弾くムーグ•シンセサイザーの絡みがとても不思議で心地よい雰囲気をだしてます。
5.合言葉 Save It For A Sunny Day

〈古い世界 蒼い未来 どこにも行けない〉脚韻を踏んだこのラインは僕も気に入っています。平易な日本語だけれど、平易ではない景色ですね。こんな有事の現実をどうにか端的に言い表したかった
晴れた日のために充電しておこうぜ!
過去にはSave It For A Rainy Dayという楽曲はあるけど、このコロナ禍だった時だからこそ、晴れた日の為にという素晴らしい表現だなと思いました。
スウィート•ソウルのマナーを持ったコヨーテバンドお得意のナンバー。
6.新天地 Sweet Refugees
レコーディングデータを見ると2019年の4月なので最初のセッションになります。
英題を直略すると素敵な難民、逃亡者、亡命者とでてきます。
このRefugeeという言葉はトム•ペティ& ザ•ハートブレイカーズの楽曲にあって少し馴染みはあったんだけどね。
この楽曲では複数形になっているので、逃亡者たち、という感じでしょうか。
時代と国境を越えてゆく
新天地を目指す二人
間奏のアッキーのソロがいい音だしてるんだよね。好きなところ。
7.東京に雨が降っている Rainy Day In Tokyo
夏を待っている梅雨時の曲。
ここでの雨は、コロナ禍においては、ウィルスとも置き換えられるのかもしれない。
ずいぶん遠くに来てしまった
というラインは「新天地」での二人なのだろうか。
とてもポップでこの鬱陶しい梅雨の季節をコヨーテバンドがうまく表現している。
8.悲しい話 Jamming
英題の通り、スタジオの時間が余ったために即興で曲を書いてバンドでセッションしたそう。
コヨーテバンド流のブルースロック。
ギターソロは元春がグレッチのデュオジェットをかなり歪ませて、いかがわしくプレイしています。
9.少年は知っている Boys Know Why
「天空バイク」 「純恋 すみれ」から繋がっているような少年に向けての楽曲。
コロナ禍、自分が10代の少年だったら何を感じるか。というのがテーマだったそう。
大人になった僕が少年の自分を見ている作りにした。僕も多感な時代を経験してきたから、男の子たちの不安はよくわかる。それをシンプルなロックンロールにてみた。
初回盤には、この曲のタイトルを少女にした「少女は知っている」という楽曲が期間限定でダウンロードできました。
10.いばらの道 All Our Trials
シュンちゃんのピアノ、ゆったりとしたビートはザ•バンドを感じさせる。
コヨーテバンドのコーラスがとてもいい感じ。
2番はシュンちゃん、3番はフカヌーがハーモニーをつけている。
伝承音楽としてのフォークソングがこの2022年に誕生した。
一時は配信のみかと思われたこのアルバム。『今、何処』と同封という形でしたがCDでもリリース。2023年8月にアナログ盤もリリースされました。現在の音楽業界は、まずCDの売り上げの具合でアナログ•レコードを作れるようになる。という話しを聞いたことがあります。サブスク主流の中、なかなか厳しそうですが、フィジカルのリリース今後も続けてもらいたいところです。
そういえば、LionからJETになったね。
今回はここで終わりです。
最後まで読んでくれてありがとうございます。
では。また!!!
参考文献
※2024年初夏、ZeppTourで逢いましょうパンフレット佐野元春 コヨーテ作品を語る。
※ポッドキャスト 西寺郷太の最高ファンクラブ
※STEPPIN' OUT! SUMMER 2022 VOLUME25